「お金」と「卒業」
--自由市場の荒波にさらされる私立学校--

2009.07.10

ライフ・ソーシャル

「お金」と「卒業」 --自由市場の荒波にさらされる私立学校--

中土井 鉄信
合資会社 マネジメント・ブレイン・アソシエイツ 代表

多くの私立学校が、私学助成の抑制や削減、また少子化のあおりなどで厳しい経営状況に直面している。そんな中、約7割の学校が学費未納者の卒業認定を認めていない。学費未納は自らが招いた問題といえばそれまでだが、学校側の厳しい対応の背景には、私立学校が自由経済市場の荒波にさらされているという止むにやまれぬ事情もあるのだ。

 どんな職業でもそうだろうが、その職業に携わったものにしか分からな
いジレンマというものがある。私自身は教育を生業としているので、当然、
そのジレンマは、この日本で教育をすることの難しさに行き着いていくの
だが、最近、コンサルタントとして私立学校の経営に携わるようになり、
「教育」と「経営」という側面のバランスに関わる問題をいっそう考える
ようになった。

 少々、以前の話になるが、5月1日付けの朝日新聞に
【「滞納者は卒業不可」 私立高7割が方針 私教連調査】という記事が
掲載された。

 記事を要約すると、次のようになる。

 全国私立学校教職員組合連合(全国私教連)が、その組合員が在籍して
いる全国の私立高校(229校が回答)に学費未納者を卒業させるか、否
かという調査を行った。
 その結果は「卒業式には出席させ、学費納入後に証書を渡す」が77校。
 「式に出席させず、納入後に証書を渡す」が69校。
 「除籍する」「留年させる」という学校が6校ずつ。
 一方、卒業を認め、学費は後払いでよいとする回答は42校(18.3%)
にとどまったという。

 実に学費未納を解決しない限り卒業させないという学校が、7割近くに
も及んでいるのが現状だ。最近になり、多くの私立学校が、私学助成の抑
制や削減、また少子化のあおりなどで厳しい経営状況に直面している中、
学校側の厳しい対応には致し方ない面も多いと思う。

 しかし、卒業認定を授業料の未納があるからと言って一律に出さないの
は、どうしても私には腑に落ちない。授業料の未納には、少なくても二種
の理由があるように思うからだ。

 一つは、経済上どうしても学費の納入が難しいもの。もう一つは、学校
なのだから多少は大目に見てくれるだろうという親の甘えが原因のものだ。

 私としては、上記2つの未納のどちらの理由かにより、卒業認定を出す
出さないの決定をしたらよいのではないかと思う。経済上の問題で、授業
料の未納が発生するケースであれば、学校と地方公共団体の間で貸付制度
を作って、運用するにしたらよい。生徒や保護者は、公的機関から授業料
を借りて学校側に払い、卒業後に公的機関に返済するという制度を整備す
ることだ。

 私はこれは急務と考えている。なぜなら、このような制度を構築しない
と、私立学校は、どんどんサービス業化し、教育サービス業の本質から外
れていかざるを得ないような状況になってしまうからだ。

 学校などの「教育サービス業」と通常の「サービス業」は違う。学費と
いうお金の問題にしても、学校では教育的な配慮をすべて放棄して、集金
だけをすれば良いというものでもないのだ。

 もし、私立学校が通常のサービス業と同質のものとなれば、日本の教育
が、危うくなるのは必定だろう。日本の教育は、公立学校と私立学校が、
相補しながら担っているのだ。

 ぜひ、文科省をはじめ、地方公共団体は、私立学校を自由経済市場の荒
波にホッポリ出さないでほしい。自由経済市場となれば、私立学校は、い
っそう予備校化してしまうだけだから。

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中土井 鉄信

合資会社 マネジメント・ブレイン・アソシエイツ 代表

1961年、神奈川県横浜市生まれ。 現在、合資会社マネジメント・ブレイン・アソシエイツ代表。 NPO法人 ピースコミュニケーション研究所理事長。

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