「くいだおれ太郎」売却・第二の人生とその価値とは?

2008.04.16

営業・マーケティング

「くいだおれ太郎」売却・第二の人生とその価値とは?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

7月に閉店が決まった大阪・道頓堀の飲食店「大阪名物くいだおれ」。その商標や看板人形「くいだおれ太郎」の売却先として100件を超えるオファーが集まったという。一部では億単位、数十億という試算も出ているようだが、その価値はあるのだろうか。また、その価値が発揮できる条件とは?

「くいだおれ太郎」。筆者は結構好きだ。黒縁眼鏡に派手なストライプの衣装。ユーモラスな動き。服と同じ紅白ストライプとんがりの下には七三分けの髪型が隠されていたりする。少々ベタな感は否めないが、愛さずにはいられない。

さて、冒頭に述べた通り、今回オファーが集まっているのは「商標」と「看板人形」であるが、売却されてどこかに設置されたり、いずれかの商業施設が「くいだおれ」を名乗ったとして、高い金額に見合った何らかの効果が発揮できるのだろうか。

「くいだおれ太郎」」人形の姿形を多くの人は思い浮かべることができるだろう。とすれば、それはある種の「記号」となっていることを表わしている。
そして「記号」には、多くの場合何らかの「意味」が結びついている。
例えば、「ペコちゃん」。不祥事が色々とあったものの、ペコちゃんに罪はなく、不二家という店の中に「美味しく身近な洋菓子がここにある」という意味を示している。カーネル・サンダース。昨今の国を挙げてのメタボ対策の中では、さしもの大佐(colonel=カーネル)も厳しいが、根強いファンに「サックリとしたチキンがここにある」と伝え続けている。

さて、「くいだおれ太郎」は何を伝えているのか。和、洋食の多様なメニューをそろえ、「お座敷割烹」と称する「大阪名物くいだおれ」。現地で人形と記念撮影をするものの、店内に足を踏み入れる人は随分少なかったという。観光客の話を聞いてみれば、人形が何かの看板であることは知っていたものの、飲食店「大阪名物くいだおれ」と結びついていなかった人も意外と少なくない。つまり、道頓堀・戎橋から見えるグリコのネオンサインのような存在としての認識だ。また、店名の「くいだおれ」は特定の店舗ではなく、「グルメな街・大阪」を表わす言葉だと思っている向きもあるようだ。

しかし、別の見方をすれば、大阪にあまり詳しくない人には、看板人形が店舗と離れた独自の価値を持っていたということにもなるだろう。「くいだおれ」自体も大阪を表わす代名詞としての意味を持つと。
そう考えると、「くいだおれ太郎」という記号、「大阪名物くいだおれ」という言語としての記号=キャッチフレーズは、大阪、もしくは道頓堀という地と、もはや不可分な不可分な存在ということがわかる。

購入先として名乗りを上げているのは、通天閣の運営会社「通天閣観光」(大阪市浪速区)や、創業者の出身地である兵庫県香美町、また、甲子園球場(兵庫県西宮市)も名乗りを上げているという。
いずれが「記号」と、それと結びついた「意味」として、「くいだおれ太郎」と「大阪名物くいだおれ」という屋号を有効活用できるかという憶測は控えたいと思う。しかし、あまり地場と乖離した存在では「記号」としての「意味」が保てなくなるのは自明である。是非とも、「地元」にせっかくの価値ある「意味」を紐づけて保って欲しいと思う。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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