版権海賊たち:ベルヌ条約と著作者の人権

画像: 版権海賊とベルヌ条約のカリカチュア

2024.02.03

ライフ・ソーシャル

版権海賊たち:ベルヌ条約と著作者の人権

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/ベルヌ条約は、形態を越えた創造性こそを「著作物」と見なしている。にもかかわらず、マンガ家第一世代は、脚本も映像も現場に丸投げしてその版権利益を享受。その一方、他人の作品を貪り喰って、なんでも自分の顔にすげ替える化け物たちも出てきた。/

そこで、「原ベルヌ条約」は、第五条~十条で、翻訳上演翻案、現在で言う「二次著作物」を規制している。すなわち、第五条で翻訳を、第九条で上演を、わざわざ特記して保護対象とした。また、「翻案 adaptation」は、次のように定義した。「同じ形態または他の形態で、変更・追加・削除とともに原作品を再作した場合 lorsqu'elles ne sont que la reproduction d'un tel ouvrage, dans la même forme ou sous une autre forme, avec des changements, additions ou retranchements」、つまり、「非本質的、新しいオリジナル作品としての性格を他に提示することがない Non essentiels,sans présenter d'ailleurs le caractère d'une nouvelle oeuvre originale」。このように、「原ベルヌ条約」は、もとより形態を超越するアイディアの創造性こそを「著作物」と見なしていた。

ロシアと並ぶ原ベルヌ条約のもう一つの宿敵は、米国だった。ヨーロッパの著作物を勝手に大量に複製してきた版権海賊国家の米国に、「著作者権」は論外。せいぜい国内的な財産権としての「複製権 copyright」にすぎない。だから、1988年になってようやくベルヌ体制に与したが、いまだに「著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)」をかってに外している。そのせいで、日本でも「ハリウッドでは」などというバカがすぐ出てくるが、それはむしろいまの国際世界では通用しない。

一方、日本は、実定法主義であるために、著作権の保護対象は、表現として具体的な形態に固定されているものに限定されている。現在のベルヌ条約では、この点に関して、各国の判断に任せる、としているが、厳密な意味では、日本の著作権法は、形態を越えたアイディアの創造性を「著作物」とする原ベルヌ条約の精神に則っておらず、このために、形態を変える翻案の著作権が曖昧になってしまっている。

そのせいで、日本の映画やテレビの現場は、人の作品を無断で好き勝手にいじくりまわす、版権海賊の悪しき慣例がずっと続いてきた。とくにアニメや子供番組では、その創生期にマンガ家が直接に関与することも多く、キャラクターデザインのみで、あとは脚本も映像も現場に丸投げして、プロダクションとして、その財産権としての版権の利益を享受してきた。このため、「顔ナシ」とは逆に、他人の作品を貪り喰って、なんでも自分の顔にすげ替えるMHのような化け物も出てきて、国内の高い評価とは反対に、『ムーミン』の始めから国際的には何度も原著作者たちの激怒を買っている。そんな版権海賊連中を放置してきたツケが、いまだ。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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