大阪音大ミュージックビジネス専攻の瓦解

2023.03.31

ライフ・ソーシャル

大阪音大ミュージックビジネス専攻の瓦解

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/大学を、日本の音楽シーンを良くする気概はないのか、という山口氏の言い分もわからないではないが、もともと大阪音大は、音楽を通じて良識、感性、信頼を培う、という穏やかな教養主義で、卒業生をギラギラした業界人として活躍させようなんていう話は、最初から大学の伝統と気風に対する調和とレスペクトを欠いた独奏だったのではないか。/

漏れ聞いてはいたが、ひどい結末だ。芸術大学としては、アーティスト育成と並んで、世界的にアートプロデューサーの養成が数十年前から急務とされ、自分もまた、もともと芸術家一族に育ち、大学で経営学を学び、テレビ局にいた経験もあって、経営系とアート系の兼ね合いについて研究し、また、アートプランニングの講義を担当してきたので、大阪音大の一件は、深く思うところがある。

問題を整理しておこう。アートプロデュースに関して、美術館の学芸員キュレーターという存在があり、そのおかげで美術系が先行。ただし、これはこれで、客観的な研究者としての従来の立場と、無名のものを世間に煽ってマーチャンダイジングするという生臭い商売のソリが合わず、公務員のうさんくさい話も聞かないではない。

映画、演劇、出版は、もともと資本主義的で、社内外のプロデューサーがアーティストを会社にピッチングして支援と機会を「出資」させるというスタイル。つまり、会社は支援と機会の装置倉庫に過ぎず、純粋に経済的に投資リターンの大きいアーティスト、いわゆる「数字」を持っているやつ、をドライに選定する。

厄介なのが音楽系。国民的歌謡曲の時代ではなく、クラシックからポップス、ロック、エスノやテクノまで、すでにマーケットセグメントが細分化されており、また、レコードがデジタルになって、資本的敷居があまりに低く、事務所や独立個人プロデューサーが濫立。「箱」やギグ、ネットでのセルフプロデュースだらけ。それで、同じく濫立状態のメディアとどうタイアップを仕掛けていくか、が問われる。

この音楽分野のプロデューサー育成に日本でいち早く手を出したのが、尚美。1986年に短大に音楽ビジネス学科を置き、2000年に大学成りして演劇やメディア、政策学に手を広げる一方、これを専門学校に移してミュージックビジネス学科に。2004年、ここに早稲田出で徳間やポニーを経て独立したものの、あまりぱっとしていなかった岡本忠好氏が就任し、学科長、さらには学校長補佐まで登り詰める。が、2018年、作曲学科長で同じく学校長補佐だった藝大出の山本正壽氏が学校長に。

おりしも、このころ、クラシック系の音大の人気がどこも急降下。とはいえ、葉加瀬太郎のようなアーティストもいたわけで、ポップスにも手を広げよう、クラシックもプロデュース次第だ、と、にわかに右往左往。そんな中で、大阪音大は、コンセプトを決めてからメンバーをチョイスするプロデューサー主導型の先駆者の一人として実績を上げていたマネジメント会社社長の山口哲一氏に相談。彼が尚美で頭打ちになっていた岡本忠好氏を紹介。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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