ワコールが突き詰める「売上=客数×客単価」の原則

2012.05.30

営業・マーケティング

ワコールが突き詰める「売上=客数×客単価」の原則

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 ワコールが下着売り場をテコ入れしているという。客足が落ちる百貨店で生き残りを賭ける秘策はなんだろうか。

 5月30日付日経MJ記事に「ワコール、百貨店テコ入れ 下着売り場提案/客層分析も 購入単価引き上げ 改装、年10店目指す」というタイトルの記事が掲載された。
 単純な計算であるが、売上=客数×客単価である。客足が落ちているのであれば、客単価を向上させて売上を維持するしかない。それが基本戦略の方向性なのだ。記事によれば、<従来下着メーカーの役割は商品を卸すだけだったが、周辺の顧客分析からレイアウト提案まで手がけ、購入単価を引き上げる>とある。そして、<売上高が2桁伸びた売り場もある>と、成果も出ている。

 客単価向上の秘策は「買い回り」だ。4月に渋谷に開業した東急百貨店の新業態「シンクス」。そこのワコールの売り場は<天井には大きな欧州製のシャンデリアがつり下がり、店の中央にはホテルのロビーにあるようなソファーが構える。まるで高級ブティックだ>と記事にある。狙いは<「お客様が回遊しながら長居できる空間を作った」>ということだと同社役員がコメントしている。
 「客単価」を分解すれば、「客単価×買い上げ点数」だ。居心地のいい店舗でゆっくりと買い回りして、買い上げ点数が増えれば客単価は上がる。シンクスでは<通常の売り場の2倍である客単価2万円で推移する>とある。そのヒミツは快適な売り場というだけではなく、徹底した顧客分析による商品構成や売り場レイアウトにあるという。その結果、同店は「都市型・キャリア層」という明確なターゲティングを実現した。

 「客数」は、「通行客数×入店率」で決まる。つまり、いかに売り場に引きこむかが最初の勝負なのだ。昨年9月に改装した東急百貨店たまプラーザ店の売り場は「都市圏郊外型・シニア層」がターゲットだという。注目すべくは売り場の環境である。通常、<売り場が1階上がると売上高が20%下がる>という業界の常識に対し、<1階から2階へ上がったにもかかわらず売上高は2桁増>であるという。階上になって売り場前の通行客数が低下しても、改装店舗の魅力で売り場に足を止めて入ってくる客数を増した結果であると考えられる。

 ワコールの主要な販路は百貨店だ。<駅ビルやネットとの競合で苦戦が続く>という百貨店に依存するだけでは共倒れの心中となる。それを、メーカーであるワコールが率先して「売り場改革」をして生き残りを図ったのである。その根本は、百貨店来店客が分母であるという制約条件の中で、「いかに売り場の客を増やし、そこでの買い上げ店数を増やさせるか」という、愚直なまでの原理原則を追求した点にある。
 商売は様々な制約条件の中で営まれる。その条件自体を変革することも大切であるが、原理原則を追求し、売上を上げていくことの重要さをワコールの事例は示してくれている。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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