変わる顧客ニーズ、追うメーカー・百貨店

2012.03.12

営業・マーケティング

変わる顧客ニーズ、追うメーカー・百貨店

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 百貨店不振が続く中、そこから脱出しようとするメーカーのブランド戦略と、自身の売り場のあり方を変えようとする百貨店の姿が2012年3月12日付日経MJの2つの記事に取り上げられていた。深掘りして考えてみよう。

 1つめの記事は「ファッション&リビング」欄。【女子中高生向けブランド ナルミヤ、SC出店強化 『百貨店依存』を見直し 今期10店舗を計画】とタイトルにある。記事本文には「課題となっていた百貨店依存の高い販路の見直しを進める中で、11年にはイオンと共同開発をするなどSC向け強化の路線を打ち出している」「SC販路比率を7%から20%へ」とある。

 ナルミヤは百貨店と一度「心中」をした過去がある。記事に「ナルミヤは業績不振に伴い07年から投資ファンドのSBIキャピタルの傘下で経営再建を目指している」とある通りだが、原因は百貨店販路に偏った出店政策にある。「百貨店と心中」という意味は、百貨店がダメ(集客・売上減)なのは判っているのに、SCや独自路面店など競合となり得る販路には百貨店の売り上げを喰うという遠慮から展開できないでいたということ。再建段階でついに背に腹は替えられず、今回の施策は別の道を選択したということになる。
 同様な意味では、業種別のブランド体制をバッチリ確定させている婦人下着がある。例えばワコール。「ワコール」は百貨店中心の販路のブランドでもある。GMSでは「ウイング」というブランドで展開している。しかし、百貨店、GMS共に業績は良くなく、客層も高年齢化している。売上が伸びている若者向商品はどうか。路面店でライバルのトリンプが「アモスタイル」で展開。それを追ってワコールは、「ピーチジョン」を傘下に収め路面店を強化しているのである。

 百貨店自身も変わろうとしている。同日の日経MJ記事より。
【女性向け売り場立地に応じ進化 大丸松坂屋「うふふガールズ」 働く女性に照準:雑誌と着こなし提案 母娘連れ多く:有名セレクト店入居 大丸心斎橋店では定期的にファッションショーを開くなどファン作りを進める 入りやすさをアピール】とタイトル周りにある。記事本文には、「現在、うふふガールズは大丸京都店、松坂屋銀座店など6店舗。今月には名古屋松坂屋にもオープンした。それぞれの店で品揃えや販促を変えており。課題も見えてきた」とある。

 記事にある「課題」とは各店共通の売り場名(ブランド)を作るのは「売る側(百貨店)」の思い・戦略でしかないということだろう。そこに集う客もそのニーズも異なることに気付いたのだ。従来のように「百貨店」という存在にあこがれを持つことのない現在。同じ売り場名を付けても地域の顧客ニーズを汲み取って、集客・買い上げを増やそうとすることは理に適っている。
一部の上顧客が高額商品を外商から購入することと、多数の一般あこがれ層がたまに訪れ少数買い上げるというモデルから、特定多数のファン層を囲い込んで、高頻度で買い上げをしてもらうという「高回転型」への脱皮を百貨店が模索しているのがわかる事例だ。

 販路の設計はあくまで、「何を、どのように買いたいのか?」という顧客ニーズに従うことが肝要だ。故に、500ml以下の小型PETボトル飲料は、「いつでも開いているコンビニ」「どこにでもある自販機」という「いつでもすぐ飲める」という販路がメインとなっている。モノを買う場所、買い方に対する消費者のニーズが変化してきている今日、企業・ブランドもしがらみを捨てて新たな販路や売り場の新しい姿を求めることが急務なのである。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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