携帯されない雑誌と、読まれるケータイ

2008.08.06

営業・マーケティング

携帯されない雑誌と、読まれるケータイ

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

電車の中のスキマ時間。何をして過ごすだろうか。車内で乗客を見回してみれば、過半が携帯電話の液晶画面をにらんでいることも少なくない。一方、乗客の中で雑誌を読んでいる人はどれくらいいるだろうか。

現在、日本雑誌協会が主催する「雑誌愛読月間」の期間中である。(7月21日~8月20日)。電車の車内吊りポスターには、アイドルのアッキーナこと南明奈が浴衣姿も麗しく、「雑誌にお作法はございません」というコピーに花を添えている。
http://www.dokusyo.or.jp/jigyo/mag/mag.htm

「お作法はない」とは、「いついかなる時にでも、気軽に好きな読み方で楽しんでほしい」ということだろう。しかし、残念なことに車内に雑誌を広げている人は数えるほどしかいない。

インターネット調査会社のマイボイスコムによる「雑誌」」に関する継続調査の結果がリリースされた。
http://www.myvoice.co.jp/biz/surveys/12007/index.html

雑誌の販売実績とメディアとしての衰退が取りざたされる中、意外ときちんと有料購読している人が多い反面、やはりフリーペーパーが閲読誌ジャンルや、よく読む雑誌のランキングで大きな勢力を占めていることがわかる。
その中で気になるのが、閲読するシーンだ。複数回答で、「自宅でくつろいでいる時」が67.2%なのに対し、「電車やバスなどの移動中」は18.9%しかいない。

昔なら、電車やバスなどの移動中は雑誌閲読の定番的シーンだったはずだ。移動の合間にキオスクでちょいと買って、車内で広げる。読み終わると会社に着いたら誰かに渡す。そんな読み方。
しかし、自身の日常を考えても、ご多分に漏れず、ケータイの液晶画面とにらめっこしていることの方が多い。雑誌を小脇に抱えて携帯するなどということもずいぶん少なくなった。車内の読み物としての地位は、雑誌はケータイにその座を奪われてしまったと言ってもいいだろう。

しかしそれも、同じくインターネット調査会社のするネットエイジアの「ケータイ依存度調査」の結果を見ると無理からぬことではあるように思う。
http://www.mobile-research.jp/investigation/research_date_080731.html

<ケータイを「持ち歩いていないと不安」全体で3/4超える><特別な用事なくとも「ケータイを利用・触れる」80%>・・・自らも身に覚えのあることとはいえ、斯様に「依存状況」を列挙されると確かに雑誌のつけいる隙はもはやないこととわかる。

では、雑誌に生き延びる道はないのだろうか。
雑誌を読むシーンでは、「自宅でくつろいでいる時」は他のシーンに比べると倍以上のスコアを占めている。つまり、雑誌は今日、「スキマ時間を埋めるツール」ではなくなっているということではないだろうか。
くつろいでいる時にどのように誌面に接するだろうか。時間があるのでしっかり読み込む。もしくは、写真を眺めてパラパラとめくる。そんな読み方ではないだろうか。いずれもケータイの画面サイズには適さない。

ケータイに依存する人々。雑誌は読まれるシーンも変化している。ケータイ依存はもはや後戻りするとは思えない。だとすれば、それに抗するのではなく、独自の利用のされ方を確立することが雑誌離れを食い止める手立てではないだろうか。
「雑誌にお作法はございません」と、生活者に委ねるだけでなく、「ゆったりとした時間を雑誌とお過ごしください」といった提案があってもいいだろう。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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