電子書籍化が本当にもたらすこと

2010.09.21

営業・マーケティング

電子書籍化が本当にもたらすこと

猪口 真
株式会社パトス 代表取締役

日本での電子出版はどこに進むのか、そして新しいモバイル端末を中心とした新たなマーケットは、何を我々にもたらしてくれるのか。

電子書籍に関する話題には事欠かない。
大手印刷会社同士がタッグを組んだとか、大手キャリアもいっしょにやるとか、新しい端末が出るとか、相変わらず既存権益を持った人たちが今後も市場を握ろうと躍起になっている様相だ。

特に、新聞社や印刷会社、東芝などのメーカーや、NTTドコモなど通信業者、電通など広告代理店を含む89の企業・団体が参加した「電子出版制作・流通協議会」においては、「日本の出版文化を残す」などと大上段目線で語っているが、ジャーナリストの佐々木俊尚氏はTwitterで「自分たちの既得権益を守りたいだけじゃないのか?」と看破する。

これにはまったく同感だ。これまで出版物として出ていたものが電子化し、自由にやられるなど許すわけがない、という視点以外の何者でもないからだ。こうした業界が中心であるかぎり、市場の動きを大きく変えることにつながることにはならないだろう。
実際、市場は既存メディアの思惑通りに進んでいる。日本製紙連合会が発表した、2010年度上半期の印刷・情報用紙の国内出荷高は、これだけ電子出版化が騒がれているにもかかわらず、前年比101.2%と伸びている。ペーパレスどころの話ではない。

iアプリの書籍にしても、数千の販売部数で1位になるような市場でしかまだなく、しかもランクインしている書籍の大半は漫画だという事実が、電子出版の明るい未来を照らしているとはまったく思えない。すでに携帯やPCで読める電子書籍があるにもかかわらず市場自体はたいしたことがない。大手出版社が「まだ市場と呼べるものではない」と余裕を見せているのも、ある意味では正しい。

しかし、大手を中心とした大同団結の動きや静観の構えは、相変わらずユーザーの視点を欠いている。
「文化を守る」など言わずに、せめて「読者の利便性を考えた電子出版のあるべき姿を実現するため」ぐらいのことが言えないほど、業界を守ることに躍起だということだ。

そもそも、これまで紙で発行していた情報コンテンツをそのまま電子デバイスに載せ変えて読者が喜ぶとでも思っているのだろうか。私の周囲も含めて、仕事のための情報として使う、あるいは読んでおかなければならない義務感以外で積極的に読書をするビジネスマンを最近あまり見ない。つまり、書籍という形態が現在のビジネスマンのスタイルに少しずつ合わなくなってきているのだ。
ただでさえ読書をしなくなったビジネスマンは、たとえiPhoneを持ったとしても、Twitterやメール、ゲームに忙しく、iPhoneで読書をするどころではないだろう。あるいは今後iPhoneを持つ人が、端末が変わったぐらいで既存の書籍を単純に置き換えた電子書籍を読むようになるだろうか。あえて電子デバイスで読書をするプロセスを選択するだろうか。

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