他人の病気や障害に対する謙虚さ

2014.03.08

ライフ・ソーシャル

他人の病気や障害に対する謙虚さ

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/他人のつらさはわからない。専門の医者ですらわからないことだらけなのだから、シロウトが他人を詐病だなどとあげつらうのは、変じゃないか。わからない以上は、思いやりを持って接し、それで騙されたとしても、本当に苦しむ人を心まで傷つけるよりはまし。/

 体の強いやつを友達にするな、と、吉田兼好も『徒然草』で書いている。病気や障害のつらさというのは、本人でなければわからない。ところが、ムダに屈強な体力バカは、他人のつらさはわからない、ということがわからない。色盲の人の目の前で手を振って、なんだおまえ、目が見えてるじゃないか、この嘘つき! などとやって、勝ち誇ったように悦に入ったりする。

 感音性難聴などという障害も、この色盲と似たようなものらしい。音が聞こえない、というのではなく、音の存在そのものは聞こえても、周波数的に音像が崩れていてうまく聞き取れない、という、内耳神経系の障害。物理的な音波振動に関する外耳や中耳の伝音性難聴と違って、ただ音を拡大するだけの補聴器を使ったところでどうなるものでもあるまい。色盲にメガネが役に立たないのと同じ。原因もわからないし、治療法もない、そもそも本人がうまく人に説明できないということで、ほんの数十年前まで、うやむやだったとか。ところが、近年、脳波検査(ABR)の発達で的確な判断ができるようになり、電子技術で感音性用補聴器や人工内耳なんていうのが急激に普及しつつあるそうだ。

 ちょっと前までは、鬱病ですら、世間では、根性無しの怠け者の詐病、とされていた。痛風や糖尿病なんかも、贅沢病とされ、もっとちゃんと働きゃ治る、などと言うバカがいっぱいだった。女性だけでなく、男性にも更年期障害がある、と、言われるようになったのも、つい最近。しかし、メリノール病だの、脳脊髄液減少症だの、パニック障害だの、慢性疲労症候群だのとなると、いまだに知らない人の方が多いかも。ぐだぐだ言ってないで、酔い止めでも飲んで、這ってでも職場に出てこい、みたいな鬼上司がいたりする。

 妊婦や老人、子供に関してもそうだ。いや、まだ外見でわかるだけまし。わしは年寄りじゃ、大切にせんか、と、電車の中で老人が若者に無理やり席を譲らせたら、その若者が目の前で起立性貧血かなにかですぐにぶっ倒れた、なんていうことも。その老人だって、見た目には元気そうでも、つねにニトロを持ち歩いている、降圧剤だの、ブドウ糖だの、お守りにしているのかもしれない。

 その分野の専門の医者でもないくせに、ほら見てみろ、あいつは病気じゃない、詐病だ、なんて、シロウトが言うもんじゃあるまい。専門の医者ですら、外から見ただけで病気とわかる病気ばかりではないのだから。逆にまた、ほんとうに障害があるなら、できっこないはずだ、なんて、決めつけるものでもあるまい。足だけで上手に料理や家事、子育てまでやってのける人もいる。脳溢血からのリハビリで、運動能力でも、言語能力でも、驚くほど回復する人もいる。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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