褒めて伸せば、すぐ折れる

2013.12.09

組織・人材

褒めて伸せば、すぐ折れる

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/即応・強烈・確実な快楽は、そこに神経連関を形成する。しかし、承認欲求の快楽を応用した、褒めて伸ばす動物的な調教法は、短期的には絶大な効果があるものの、麻薬同様の褒美中毒を引き起こし、かえって人間としての真の自立教育を妨げる。/

 動物園や水族館でサルやイルカの芸当を見たことがあるだろう。知能の高さを展示するためのものだ、などというのは、動物愛護の連中に対する言い逃れ。芸当をやるたびに陰でこそこそエサをやっているじゃないか。しょせん畜生の浅ましさ。実際、知能なんか関係無い。ニワトリだろうと、同じやり方で踊らせられる。さまざまな偶然の行動の中で、特定のタイプの行動をとったときに根気強く褒美を与えると、なぜ褒美がもらえるかなんて頭ではわからなくても、体が覚える。そういう神経連関が形成されるから。

通称「トリプルP」、プレジャー・ペイン・プリンシプル(快苦原理)。人間もしょせん畜生と同じで、ヘドニック・カリキュラス(安楽計算)で動いている、と、功利主義者のベンサムは考えた。そして、いわゆるアメとムチの外的制度を付加してやることで、人間の動機付けを誘導し、内的な習慣を形成させようとした。その後のハーズバーグなどの研究により、苦が残っていても快さえあれば動機付けになることがわかり、かくして、承認欲求のみを主軸とする、現在の甘い、褒めて伸ばす教育法となった。

 ベンサムが考えたヘドニック・カリキュラスは、IDCNFPEの7つの変数から成り立っていた。すなわち、強度、持続、確率、近接、派生、純粋、社会。しかしながら、動物的な神経連関の形成にとって決定的であるのは、近接、強度、確率だけ。つまり、快楽が即応・強烈・確実なものは、そこに快楽の習慣回路ができてしまう。たとえば、酒やタバコ、パチンコ。それをやれば、すぐに酩酊や鎮静、興奮という快楽が強烈確実に生じる。それで、そこに神経連関が形成され、快楽を求めて止められなくなる。ネット中毒も同じ。承認欲求を満たすリアクションが即応で集まる。そもそもシステムを作る方が、ゲーミフィケイションの理論に基づき、即応、競争、称賛の中毒回路を組み込んでいる。

 勉強や仕事をがんばるようにさせるには、同様に、即応・強烈・確実な褒美を出してやればよい。オレオレ詐欺のような犯罪行為にハマるのも、ブラック会社で本当に死ぬまで働いてしまうのも、いかがわしいカルト教団にハマって人生を棒に振るのも、そこにこの三要素がうまく組み込まれているから。自分で苦労して学費を工面していない学生が、学校なんかサボってカネをくれるアルバイトをした方がマシ、と考えるのも、直感としては当然。その結果として生じる苦については、快に紛れて、気にならない。それどころか、その苦から目を背けるために、さらに強い快の刺激への動機付けが生じる。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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