自分自身をひっくり返せ

2013.01.28

ライフ・ソーシャル

自分自身をひっくり返せ

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/空に浮かぶ風船は、その紐を掴まないかぎり、キミの夢にはならない。前向きなだけでは、前には進まない。古い自分自身を踏みつけてこそ、半歩前に踏み出すことができる。/

 こんな自分ではダメだ、と思うとき、ダメだと思われている古い自分に対して、それをダメだと思っている、もう一人の新しい自分がいる。その、古い自分をダメだと思う新しい自分こそが、現実のダメな自分を半歩前へと進める足がかりだ。

 人間は、前にしか眼がついていない。だから、先のことばかり、調子よく語る。夢はあるか、と聞かれると、あれこれと雄弁に語る。だが、空高くどこかへ飛び去っていく風船を指さして、あれは自分のものだ、と言い張ってみても、むなしくはないか。なんとか飛び上がって、せめてそのヒモの端だけでも掴み取ってこそ、自分のものになるのじゃないのか。

 そうでなくても、前しか見ないやつは、自分より前を行く人々のことばかりを気にしている。彼らをうらやみ、アラを探し、ああだこうだと後から言い立てる。しかし、そんなことをしてもムダだ。連中も、自分たちより前しか見ていない。後のやつの言うことなど、聞く耳は持ち合わせていない。なんにしても、キミが何を言おうと、相手にはもちろん、キミ自身とはなんの関係も無い。

 キルケゴールやニーチェ、ハイデッガーなどの実存主義者は言う、生きる、ということは、ただここにいる、ということではない。いまのこの自分自身と向き合い、積極的に関わり合っていくことだ、と。自分自身とは直接の関係が無い物事にばかり眼を向け、肝心の自分自身のことを留守にしているようでは、それは自分の人生の傍観者だ。

 引きこもり、というのは、社会との関係を持たないのではない。なによりまず自分自身との関係を持とうとしないのが問題なのだ。いまのこの現実のダメな自分に対して眼を向けることがない。だから、アル中の飲んだくれだの、パチンコジャンキーだのも、引きこもりと同じこと。社会の中で、他人のカモにされているだけ。その現実を直視しないから、永遠にその現実から抜け出すこともできない。

 ああ、ぬくい。とコタツで寝転がっているやつ。ぬくいのは、コタツか、自分か。いや、ぬくい自分と、ぬくいコタツが一体になってしまっている。だから、抜け出せない。ベートーベンを見てみろ。峻厳な交響曲を九つも書き、その最終楽章の半ばも過ぎた所に至って、オレの作りたいのは、こんな音ではない、と言い出して、これまでの自分を全部をひっくり返して、合唱の壮大なマーチとともに、さらに前へと進もうとする。

 自分は、自分自身を足場にして、その頭を踏みつけて行くことでしか、上には登れない。それどころか、そうしなければ、日々、自分は古びていってしまう。黴びるのが嫌なら、毎日、自分を磨くしかない。まして、今日より前に進もうと思うなら、こんな自分ではない自分を前へ、前へと打ち出していくしかない。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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