うろたえるな!ここが覚悟の見せどころ

2012.10.04

経営・マネジメント

うろたえるな!ここが覚悟の見せどころ

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/中国から撤退してもしなくても、現地の工場や店舗は潰れるときには潰れる。むしろ遠い将来を見据え、ツケを恩義ある従業員や顧客に押しつけたりすることなく、堂々とした姿勢を貫く覚悟が日系企業に問われている/

 いま、一連の騒動で多くの日系企業が中国からの撤退を検討している、と言う。挙げ句には、恩を仇で返した、などと騒いでいるやつまでいる。だが、将来の世界を考えるとき、十三億の優れた労働力と購買力を抱える中国を無視して、経営が成り立つのか。この程度のことで浮き足立っていたのでは、あれだけの大国と今後も互角にやっていくことなどできるものか。そしていま、彼らもまた日系企業の心底を見極めようとしている。

 1942年、日本軍が上海租界に攻め込み、米英の銀行と企業を接収した。アジア生命保険会社もまた強制的に清算を命じられ、社長のリッチフィールドはやむなくそれに従った。その作業は昼夜の休み無しに経理部で行われた。だが、日曜の夕方、社長の自宅に経理部から連絡が入った。香港支社の勘定分が除外されていたことに日本人将校が気づいて激怒している、と言う。さて、どうするか。

 社長のリッチフィールドは考えた。1いますぐ会社に出て行って日本人将校に説明する。だが、興奮している相手に弁明すれば、よけいに怒りを買って殺されるだろう。2ここから逃げる。だが、上海を出る前に捕まって、その場で殺されるだろう。3しばらく会社には行かず、すべて現場のせいにする。だが、向こうから逮捕にやって来て、結局は自分も最後の責任者として殺されるだろう。つまり、どのみち殺される。

 腹は決まった。香港勘定を分けたことに後ろめたいところはない。どのみち殺されるならば、せめてきちんと正当性を説明できるようにはしておこう。リッチフィールドは、落ち着きを取り戻し、手元の書類を整理して、徹夜で上海本社と香港支社の関係をわかりやすく簡潔な文章にまとめた。そして、月曜の朝、それを持って、まったくいつもと変わらぬ時刻に出社した。生きて帰れぬ覚悟とともに。

 銃を構える兵隊たちとともに、日本人将校が社長室で待っていた。リッチフィールドは書類を示し、通訳にそれを伝えるように願った。もともと日本人将校は会計に詳しいわけでもなく、経理専門の部下たちとしばらく話をして、そのまま兵隊たちを引き連れて出て行った。彼の命は助かった。

 さて、中国だ。いまここで日本人経営者たちが逃げ帰ったならば、自分たちが安く都合良く利用されていただけではないかという彼らの疑いは確信に変わり、彼らのうちの何人かは、愛国心の名の下に、この日本にまで、文字通り、命を奪いに来る。そして、未来永劫、日系企業に二度と中国の地を踏ませることはない。かといって、少なくとも私たちだけは中国の味方です、というような浅ましい文言を貼り出して、命乞いをしても同じことだ。いよいよ力尽くで社長まで追い出し、すべてを乗っ取ってしまうだろう。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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