付加価値という病気

2012.09.08

経営・マネジメント

付加価値という病気

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/いまの経営者は、若い頃のマルクス主義が抜けず、その付加価値図式で戦線拡大と企業縮小しか思いつかない。だが、新機能や新商品は、生活にとって付加価値が無い。世界は、戦後日本と同じ。少ない部品、壊れない製品をめざした初心こそが大切だ。/

リストラすべきは大企業の経営者だ。団塊世代の連中は、若い頃に大学でマルクス主義経済学に染まり、いまだに間違った価値観を信奉している。だから、いくら従業員数を縮減したって、収支均衡には至らず、経営も回復しない。そもそもリストラというのは、従業員をクビにすることではなく、同じ従業員で企業や製品の方向性を組み直すこと。従業員をクビにしてすることしかできない経営者こそ、もっとも無能な企業の宿痾。

 連中の腐った頭の中にあるのは、マルクスが提唱した貨幣G→商品W→貨幣G’の図式。このG’は、労働力を投入している以上、Gより大きいはず。つまり、G+△Gで、△Gが付加価値。ところが、G’がGより減ってしまっているのが現実。そこで、この図式を信奉する連中は、二つの方法しか考えつかない。すなわち、第一は、G→Wにおいて、わけのわからない新機能を開発して商品の付加価値にする。第二は、G→G’において、間のWが変わらないので、Gの方を削減し、むりやり企業の付加価値を捻出する。これが、連中の言うリストラだ。

 しかし、そもそもG→W→G’なんていう図式自体が、経済成長期にしか成り立たない空理空論。いちばんの問題は、ムダなことに労働力を投入していること。受験生が勉強もせずに合格祈願に日参しているような状態。旧ソ連が左右の揃わない長靴を大量に生産して破綻したのと同じ。作れば売れるという時代では無い。いまの経営者が考えているような商品の高機能付加価値など、左右の揃わない、作っただけの長靴のようなもの。

 トースターはパンが焼ければいい。テレビは映れば十分。いくらカタログに新機能を列挙したところで、そんなものは、現実には使わない。つまり、いくら商品にとってプラスであっても、生活にとってプラスにならない。それどころか、いらない機能だらけで、使いにくい。さらに腹立たしいことに、こういういらない機能のせいで、肝心の本来の主要機能の方が干渉されたり、妨害されたりする。そして、やたらすぐに壊れる。

 目のつけどころだの、生活にアイディアをだの、チェンジングベターだの言われても、そんな小賢しい提案など、社会は製品に求めていない。しょせん売りものなど、生活の裏方。だから、実際に、アジア製の地味な製品の方は、着実に売れ続けている。たしかに、彼らの生産技術は高くはない。だが、だからこそ、機能を減らし、部品を減らし、製品を筋肉質に絞り込んでくる。そして、必要ときに確実に動く、なかなか壊れない、壊れてもすぐにかんたんに直せる。一方、ブクブクデブデブに無用機能で肥満しまくった商品を買っただけ、持っているだけで満足する富裕層など、いまの日本の巨大企業を支えられるほど多くはない。だいいち、賢明な富裕層においては、見かけ倒しの機能でゴテゴテの日本製品より、魅力的なデザインのシンプルな高級輸入製品の方が、はるかに人気がある。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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