東京都青少年条例改正の後始末(その1:出版社編)

2010.12.12

経営・マネジメント

東京都青少年条例改正の後始末(その1:出版社編)

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/可決の流れが固まった10日になって、コミック10社会が反対の意思表示として都のアニメフェアの不参加を表明したが、賛成の意思表示として全国のPTAや教育委員会がこれらの出版社に不買運動をかければ、ひとたまりもあるまい。それゆえ、むしろ、これは、これらの出版社内部における大きな事業戦略再定義の結果と見るべきだろう。/

 同条例改正は、12月10日(金)午前の都民主党内の合意により、13日(月)に都議会総務委員会で採決、15日(水)の本会議で可決の見通しとなった。もともと2月案が6月に否決された後、都側は、都民主党側の反論をすべてくみ取る形で意見調整を図ってきたので、再案が提出された時点で、すでにこの流れは決まっていた。一方、この間、出版界側は、自主解決を試みることなく、問題を放置していた。この責任は非常に重い。

 そのうえ、一部の出版社が、都の当局と改正案策定で裏取引をしようとして都側に拒絶された、などという、みっともない話も漏れ聞こえてきている。本来であれば、出版社側が業界団体として自主的に意見統一をし、自分たちで方針を打ち出すのが当然であるにもかかわらず、みずからギリギリのエロ表現を狙うチキンレースを繰り広げていて、足並みを揃えることができず、業界団体に属さない多数の出版社を取りまとめることができない、という無能さを露呈し、そのことこそが、都に、この問題に介入する口実を与えてしまったのではなかったのか。行政の圧力を借りなければ、業界も、社内のマンガ・セクションも、まとめられない、抑えられない、というのは、経営として、すでに失敗だ。

 マンガを出している「コミック10社会」(秋田書店、角川書店、講談社、集英社、小学館、少年画報社、新潮社、白泉社、双葉社、リイド社)は、ようやく10日午後になって、2011年3月末に都や日本動画協会による委員会が主催する「東京国際アニメフェア」のボイコットを表明。その理由は、都と、この実行委員長である石原都知事に強い不信感を抱いている、とのこと。

 「その内容と条文をあらかじめ公にして、議論を尽くすべき」というのは、6月以降に都と都民主党との間で員数合わせの意見調整が密室で行われたことに対する批判だが、しかし、そんなもの、否決された2月案としてすでに原案は示されており、11月22日には、今回の再案そのものもきちんと公表されていた。にもかかわらず、2月以降、表現の自由に即した表現者の責任について自分たちで議論せず、また、都側がこの再案を公表してから後の19日間も、マンガ家まかせ、評論家まかせで、出版社として何の意見表明すらせず、ほったらかしていたのは、いったい誰なのか。これでは、なにを今さら間抜けな、と思われるだけだ。

 しかし、完全に流れの固まった10日午後になってようやく共同声明を出したのも、もともと出版社としての予定の行動、とも取れる。いくら今の出版社がマンガの収益に依存しているとはいえ、大手であればあるほど、社内には、出版人のモラルとして、やはりあんなエロ表現はまずい、と考えている人は多い。だが、アニメフェアのボイコットなら、対外的にはいちおう表現の自由をアピールできるし、同時に、際限なく増長する社内のマンガ・セクションも自滅させられる、との、上層部の高度の社内政治判断が働いている、と考えることもできるだろう。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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