怒るべきに正しく怒る

2010.10.25

仕事術

怒るべきに正しく怒る

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/ヘラヘラ笑って済ますのは、悪事を助長する共犯者だ。正しく怒ることで、相手にもまた自分と同じ真剣さを求める。だが、相手は逆ギレ、八つ当たりをしてくるかもしれない。いまの時代、もっと用意周到な、毅然たる怒りが求められている。/

 テレビ局の仕事をしていたころ、ある著名な文化人といつも御一緒させていただいていた。だが、この人物は、どうも世間では大きく誤解されたままのようで、とても残念だ。彼は、番組の中で顔を真っ赤にし、額に青筋を立てて激昂し、ものすごい剣幕で相手を怒鳴り散らす。ところが、CMに入ると、瞬時に表情を変え、飲み物を交換するアシスタントににこやかに礼を言っていたりするのだ。そして、オンエアが始まると、以前の調子に戻って、怒り出す。

 だが、それが芸風だから、などというわけではない。よく見ていると、じつは番組の中でも、相手によって適格に態度を使い分けているのだ。怒るべき相手に怒り、聞くべき相手に聞き、褒めるべき相手を褒めている。番組の始まる前も、後も、けっして偉ぶることなく、どんな若手の出演者にも、どんな下っ端のスタッフにも、丁寧に接している。作品や思想はともかく、私はこの人物に大きく影響を受け、いまでも尊敬している。

 むしろ、テレビの業界は、もともと逆のタイプの人間の方が多いのだ。カメラに映っているときは、ニコニコと笑顔を振りまいているくせに、タリーの赤ランプが消えたとたん、スタッフにネチネチと嫌みを言いながら、控えのイスにふんぞり返っていたりする。下っ端をいじめることで、自分を大物に見せようとする。チンピラヤクザと似たようなものだ。まあ、ハッタリで生きている人たちだから、それもやむをえないのか。

 キリスト教のイエスも、人を許し愛せ、とは言うが、神殿を汚す商人たちをみずから蹴散らしたように、怒るな、とは説いてはいない。何でもヘラヘラと笑って済ますのは、悪事を助長する共犯者だ。先日、ショッピングセンターで、子どもたちが友だちを泣かしていた。すると、いかにもどこかの学校の先生らしき人が飛び出てきて、こらっ! きみたち、どこの学校だ? きみたちは友だちをいじめて、恥ずかしくないのか! と、止めに入った。ヘラヘラと笑っていた子どもたちも、顔色を変え、我に返り、うなだれた。

 怒るべきことにきちんと怒るのは、人間の責務だ。笑ってごまかすのは許さない。妥協の余地も無い。こうして怒ることで、自分の真剣さを伝え、相手にもまた同じだけの真剣さを求める。だが、なにかに怒ると、人は怒りそのものになってしまい、四方八方に八つ当たりをしてしまう。怒るべきではないことにまで、怒ってしまう。孔子が亡き弟子を惜しんで、怒りを遷さず、と褒めているが、これがまた、とても難しい。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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