取材拒否する飲食店の経済学的合理性

2010.10.01

仕事術

取材拒否する飲食店の経済学的合理性

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/飲食店は、演劇興行と似て、固定費が高く、飽和点があり、利益最大点が85%のあたりにくる特性がある。オーバーシュートしても、店が短命になるだけ。宣伝広告をしない方がよい業種というのもあるのだ。/

 テレビや雑誌に広告を出せば、何十万円もかかるのだから、番組や記事に採り上げてもらえてありがたいと思え、というような高飛車なマスコミ取材を嫌う店は多い。実際、取材だ、協力だと称して、スタッフが好き勝手に飲み食いしまくるユスリタカリのようなことも珍しくない。だが、じつは感情論以前に勘定論として割が合わないのだ。

 経済学の教科書を見れば、費用は、数量に関係のない固定費と数量に比例する変動費からなる、と書かれている。売上は、完全に数量に比例するので、固定費からゆっくりと上がっていく費用線と、ゼロから急に上がっていく売上線とが、ある数量のところで交差する。これを「損益分岐点」と言う。理屈からすれば、この点を越え、売れれば売れるほど儲かるはずだ。

 ところが、現実は、かなり違う。飲食店というものは、演劇の興行に似た経済特性を持っている。第一に、固定費が大きい。まず巨大なのが場所代、つまり家賃。そして光熱費。また、レトルトばかりのファミレスはともかく、まともな飲食店であれば、客が来ようと来まいと、事前に食材を仕込んでしまい、売れ残れば廃棄だ。第二に、変動費の係数が小さい。飲食物の原価率は、およそ20%以下。第三に、そのうえ、限界変動費が数量で逓減していく。つまり、同じ料理を二つ作っても、三つ作っても、ほとんど手間は変らない。まして、宴会で同じ料理を大量に作れば、追加一つの手間など、無いに等しい。第四に、ところが、飽和近くなると、限界変動費が急増していく。これは調理の手間ではなく、接客の手間。待たせている客の面倒や、空きスペース無しに片付け、再設置をするためのムリ。第五に、満席、品切れ以上に数量を伸ばすことはできない。テーブルが埋まるか、仕込みが捌けるかすれば、そこで営業は打ち切り。

 この結果、飲食店の費用線は、高い固定費からスタートする逆S字型の曲線となる。損益分岐点は、おおよそ満席の50%のところ。しかし、95%のところにも、逆の損益分岐点が出て、これ以上はむしろ赤字。いずれにせよ、利益は、費用線と売上線との乖離幅であるから、その最大点は、85%程度のところとなる。つまり、30席あれば、つねに25席程度が埋まっている一方、5席程度は空いて、その片付けをしつつ、次の客を迎え入れられるようになっているのが、もっとも儲かる。

 テレビや雑誌、大量工業生産品のように、売れれば売れただけ作れる商売とは違って、飲食店の場合、満席以上に客が来ても、なんの利益にもならない。そのうえ、オーバーシュートすると、常連の客離れが起きて、店が短命になる。理想は、30席に20人くらいの常連がいて、5人くらいの一見さんや紹介客がいる状態。これだと、客同士の会話も弾み、アットホームな居心地の良い場となり、ロングランカウとして老舗の名店ともなる。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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