代理の身のほど

2010.09.26

仕事術

代理の身のほど

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/代理は本人と同じ扱いを受ける。それどころか、正規の権限も、さまざまについてくる。しかし、しょせんは本人に選ばれただけの私的な存在だ。勘違いをしない自制心がなければならない。/

 銀行の窓口でちょっとした相談事をして名刺をいただくと、いつもみんな「支店長代理」。だが、銀行関係に勤める友人に聞いたら、それは、行内のキャリアパスからすれば、じつは課長よりも下。それも、課長なら部下がいるが、支店長代理は部下もいない。支店長のスタッフで、職務分掌の上下のラインからはみ出ている。彼に言わせれば、「代理」と書いて「カバン持ち」と読むそうだ。

 一般の大学教授はともかく、名門大学の医学部では、いまでも教授とその手下、その弟子一門にまで及ぶ夫人会がある。『白い巨塔』に「くれない会」として出てくるあれだ。小説と実際は多少異なっていて、勤務医の間はむしろ旦那が直接に教授と繋がっているのでそれほどでもないが、独立して開業医となると、妻が出席するのは当然。これをおろそかにすると、病院への補助医師の派遣や、患者の紹介状にまで嫌がらせを受けかねない。

 また、最近はなりを潜めているようだが、戦後の自民党政権時代には大蔵省出身政財界人の夫人たちによる「高輪会」というものがあり、大臣官房室課長を実質的な幹事として、定期的に有望な若手官僚と令嬢たちを見合いさせ、独自の閨閥を積極的に築き上げてきた。同様に、海外において、夫が邦人大手企業に勤めている妻たちも、在外公館の大使夫人を頂点とする親睦会に出席しなければならない。田舎の県連代表国会議員の妻は、さまざまな地元婦人会の会長となり、県議、市議、町議の妻たちを束ねる。小は、団地や社宅などでも、夫が同じ会社、同じ部所に勤めているとなれば、その奥様方の妙な結束と上下関係が生まれる。

 結婚式の席次などでも、代理は、本人と同じ扱いを受ける。そのせいか、しだいに勘違いしてくる。政治家の秘書が、周囲にいばり散らす。人気タレントのマネージャーが、テレビ局の下っ端をこづき回す。夫人たちが、旦那の地位肩書によって、表裏一体の支配組織を作り、若手いじめをやる。概して、この裏の関係の方が、陰湿だ。

 代理の長ともなれば、虎の威を借りるというより、正規の権限も着いてくる。古くは、平安時代、娘が天皇に嫁ぐと、なぜかその夫は早世し、幼くして位についた孫の「摂政」として娘の父が実権を握った。鎌倉時代に至っては、直接に源家将軍のクビを手にかけ、源家の家政にすぎない北条家が「執権」として政権を世襲する。一党支配の旧ソ連でも、国家の首相より、組織的な人事権を持つ共産党の「書記長」の方が実力者だった。現代の株式会社においても、本来の所有者は株主総会であり、「社長」など、その代理管理組織である取締役会の長にすぎないはずなのだが、株主総会の議長を務め、そこで取締役たちの人事案を独占的に提起することにおいて、企業の支配権を奪ってしまっている。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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