毎日がチェックアウト

2010.09.17

仕事術

毎日がチェックアウト

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/去年と同じことをしていても、自分自身が一つ年をとってしまっている。一方、ネコは、毎日をあますところなく楽しんでいる。人生は生ものだ。今日を明日にとってはおけない。/

 旅先のホテルの部屋を出るとき、忘れものはないか、見回す。ただ一夜を過ごしただけながら、ここには二度と戻らない、と思えば、いくばくかの感慨もある。そうやって、いくつもの国、いくつもの街を経てきた。そして、人生は、そういう毎日の積み重ね以上のものでもあるまい。

 なんとなく昨日と同じに会社に行き、昨日と同じに仕事をする。そして、去年と同じに春が来て、夏となり、秋が過ぎ、冬に至る。平穏に何事もないようだが、一年経てば、自分はひとつ年をとっている。前と同じことをしているつもりでも、それは、もはや一年の遅れをとったことにほかならない。

 下りエスカレーターを逆に歩いているかのようだ。昨日よりは一段を登っても、結局は同じところ。それどころか、ほんのわずか気を抜いただけで、むしろはるかに下ってしまっている。スゴロクも、パスばかりしているやつが、前に進むことはない。地道に前に進んでいても、しばしば振り出しに戻る始末。

 家の近所が更地になっていた。さて、何があったのやら、といぶかれど、まったく思い出せない。だが、世の中、すべてがそんなもの。会社を興し、工場を造り、そこに自分の銅像を立ててみたところで、それが潰れれば、わずかに価値のある金属の固まりとして最初に回収業者に引き取られていく。天下に栄えし奈良の都も、今は昔、ただの野原に帰り、その屋敷の一つ、その小屋の一つさえ残りはしなかった。

 ネコの一生も不思議なものだ。みゃあみゃあと生まれてきたかと思うと、心のままに遊び回り、愛嬌を振りまいて、やがて子ネコを慈しみ育て、そのうち寝てばかりいるようになり、ある日、冷たくなっている。家ネコでも十年。家を出てしまった雄ネコなど、ほんの数年で行方知れず。ケンカや事故の末、どこかで倒れ、死んで骨となり、跡形もなくなってしまうのだろう。まさに、うたかた。

 だが、それが不幸であるとも思えない。連中ほど、その日、その日を楽しんで生きているものもあるまい。くだらないことに熱中し、眠くなったら寝たいだけ寝て、人に甘え、愛し、愛されて日々を終える。明日の憂いなど、なにもないかのようだ。キリスト教のイエスも言う、思い煩うのは止めなさい、あしたのことは、あした、神様が取りはからってくださる、と。

 子供も、その今日の満面の笑顔は、明日まではとってはおけない。今は仕事が忙しいから、いずれまとめて遊んでやろう、などと言っても、それは無理な相談だ。そのころには、子供の方が、もはやべつに親と遊んでもらいたいなどとは思わなくなってしまっている。それどころか、親に遊んでもらえなかったという恨み辛みは、取り返しのできないツケとなって、永遠にあなたに付いてまわることになる。

 人生はナマものだ。今日を明日にとっておくことはできない。また、明日になって今日に立ち戻ることもできない。今日すべきことは、今日終えておく。若き日にすべきことは、若き日に終えておく。勉強や恋愛、仕事に結婚に子育て。時機を逸しては、成るものも成らない。人生は自分で決める、などというのは、思い上がり。チャンスは、与えられたときに、しっかりとつかむべきだ。そのためにも、いつチャンスが来てもいいように、つねに備え、毎日をしっかりとチェックアウトして、明日を迎えなければならない。

/by Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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