出会いが少ない?

2010.09.12

仕事術

出会いが少ない?

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/毎日のルーティンワークの中では出会いなどない、旅に出ても同じ、と言うが、今の時代、縁が無いのではなく、せっかくの縁を大切にしている余裕がないのだ。糸に紐をつけ、紐に縄をつけ、縄に綱をつけて返してこそ、谷川を渡す吊り橋もできあがる。/

 婚姻率の低下の背景には、さまざまな原因があるが、直接的によく言われるのは、出会いが少ない、ということのようだ。毎朝、同じ時間に起きて、同じ電車に乗り、ずっと同じ職場にいて、また、同じ電車で帰り、同じスーパーで買い物して、部屋に着くだけ。週末は疲れて、外に出るのもおっくう。せいぜい同じ友だちと会うくらいか。いわゆるルーティンワーク。この中では、まず特別なことなど起こらない。

 まれに職場に新人が配属になる、などということはあるかもしれない。だが、これも、昔と違ってややこしい。たとえ本気でも、余計な誘いをかけて、それでセクハラだなんだと言われたのでは、自分の居場所がなくなる。だから、どんな素敵な新人でも、新しい機材が入った、くらいに思った方が無難だろう。上司もそうだ。昔は、商社など、最初から会社側が身元までしっかりした男性、女性を採用しておいて、若手を早々に結婚させて海外赴任させるべく、上司が、どうかね、などと、双方に声をかけ、うまくマッチングした。だが、いま、そんなおせっかいを焼けば、やはりパワハラだなんだと言われかねない。

 では、ルーティンの外、旅にでも出れば、なにかあるか。ありはしない。飛行機に乗って、観光地を歩き、有名店で食べて、ホテルに帰って寝るだけ。おしゃれにカフェで本など読んでいても、テレビドラマのように、行きに乗った飛行機の客室乗務員と偶然に再会したり、突然にかっこいい旅行雑誌のカメラマンが声をかけてきたりして、いっしょに事件の謎解きに走り回ることになる、などということは、絶対に無い。せいぜいムダに日焼けするだけ。それどころか、どこへ行っても、楽しく休日を過ごす幸せそうなカップルや家族連れをさんざんに見せつけられ、ただ食傷するばかりだろう。

 しかし、どうなのだろう。これは出会いが少ないからなのか。昔々なら、男であれ、女であれ、峠の茶店で席を同じくしただけでも、この先の山道は物騒ですから、ということで、次の宿場まで共に歩き、しばしの会話を楽しんだものだ。いま、同じマンションの隣の部屋に住んでいても、それで声をかけられれば、そいつの方がよほど物騒だ。同じ電車に乗り合わせたというだけで、跡をつけられたのでは、あまりに気味が悪い。

 べつに男女の出会いだけのことではない。昔は商売をやっていて、縁あって小僧を預かれば、もはや我が子も同然。手代、番頭へと育て上げ、羽織を着せ、良嫁を娶らせ、暖簾を分けてこそ、旦那の信用にもなった。従業員の方も、良い旦那の店を飛び出すようでは、他に採る店など無かった。だから、いったん縁を得れば、その縁は、たがいに一生、切っても切れないものだった。一方、今の会社は、人の採用も、自分の好き勝手に、どれでもだれでも選り取り見取り。だが、従業員の方も同じ。多くが入って来ても、多くが出て行ってしまう。まるでターミナル駅の雑踏のように、ただすれ違うだけ。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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