いまそこでそれを買う理由

2010.09.02

仕事術

いまそこでそれを買う理由

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/なんてもあっても、なんにも売れない。安売りのワンストップ・メガショップをめざしても、坪当売上高は逓減。総合化すれば、どこでも同じ。こうなると、客がもとめているのは、そこへ行く理由、そこで買う理由だ。/

 これが今年の新しいデザイン、こちらは昔からの無難な商品でしょうか、そして、こんな高機能のものもあるんですよ。で、どれになさいます? 新しいもの、定番のもの、そして、変わりもの。ここで重要なのは、いつの間か、どれを買うか、という話になっており、買わない、という選択肢は消えている。これが、対面販売、デパート店員の技。

 かつてデパートは、バイヤーブランドだった。そのメーカーのことは聞いたことがないが、あのデパートが売るものなら、まちがいない、と言われた。実際、目利きのバイヤーが、全国各地から、そして世界中から銘品逸品を集め、デパートの信用で上得意客に紹介していた。また、上得意客の方が、こういうので、なにかよいのはないかしら、と聞けば、どこかからちょうどよいものを見つけてきてくれた。

 また、デパートは、オペラや歌舞伎などと同様、社交の場でもあった。そこに行けば、だれかしら知り合いの人も来ていて、ちょっとお茶をして世間話を、というようなところだった。デパートの方も、商品販売だけでなく、展覧会や文化サロン、旅行企画なども積極的に手がけ、上得意客相互の交流を図った。そうでなくても、ちょっとXXデパートまで、お買い物に、と、近所や周囲に言えば、まあ、すてき、と思われるような、プレステージ感が溢れていた。

 しかし、その大衆化とともに、デパートの方が先に客を裏切ったのだ。不明朗な縁故商品の大量処分に客を利用し、上得意客の味方よりもメーカーブランド相手のテナント商売を主軸にするようになった。そのうえ、在庫処分のバーゲン、バーゲンで、早い者勝ちの壮絶な掴み取りの戦場にしてしまい、上得意客たちが集まる茶話の場を失わせた。売場も、メーカーサイドからの応援販売員の派遣が常態化し、セルインもセルアウトもメーカーが自分でやるのが当然になって、バイヤーや接客のプロがいなくなった。こんなポリシーもプレステージもないデパートなら、量販店か通販で買っても同じ。それに、そっちの方がずっと安い、ということで、大衆さえも見限った。

 そこで、なんとか客を囲い込もうと、店舗を巨大化して、安売りのワンストップショップをめざす。ところが、そんなことをすれば、坪当売上高が逓減。そこで、さらに店員を減らす。これではただのだだっぴろい無人倉庫。だが、売っている側はクビをかしげる。これだけなんでもあるんだから、どれか売れるはずではないか。しかし、そこには、店としてもっとも大切なもの、わざわざそこに行く理由、そこで買う理由こそが無いのだ。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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