ブランド型かけ算商売の飽和点

2010.08.04

仕事術

ブランド型かけ算商売の飽和点

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/産業革命以来、企業は、設備型、開発型、ブランド型と、資本回転率のかけ算商売で効率を上げてきた。だが、関係者が増えれば、収入の期待値も下がり、数を揃えるためのコストの自重がのしかかる。/

 ひとつ作って、またひとつ。手作業の商売は、足し算で成り立っている。ところが、十九世紀後半の産業革命以降、資本主義とともに巨大な「かけ算商売」が登場してきた。その最初は、石炭や鉄鋼、化学肥料などの産業。国家投資的な設備資本を利用する。ここでは、同じ資本の稼働率によって生産性が決まる。昼間だけよりは、昼夜二交代、さらには早番、遅番、深夜番の三交代二四時間フル稼働の方が収益が大きい。

 二〇世紀初頭になると、自動車や電器などの民間産業において、開発型の資本主義、いわば技術資本が生じる。これは、先行的な株式投資を集め、技術や金型など、破格の開発費をかけても、その後に同一の製品を大量生産すれば、個々の製品に占める変動費としての製造原価はともかく、固定費としての開発費は個数割りで逓減できる、というしかけだ。たとえば、開発費が1000万円でも、1000個作れば、1個当たりの負担は1万円、2000個作れば、5000円に過ぎなくなっていく。流通も同様。およそ生産倍増で費用三割減になることが、経験効果としてよく知られている。

 さらに二〇世紀後半には、書籍や音楽や映画などのブランド資本が席巻する。これは、出版複製ながら高額で売れる商品であり、その製造原価は価格の数パーセント。開発費は個人の才能頼みで、相当のギャラを払っても、商品がヒットすれば、出版業者はボロ儲けだ。とくにラジオやテレビという放送メディアは、遠くに届くことよりも、同時に大量複製できるコピーマシンとしての威力が強大であり、広告業は看板からCMにシフトし、また、その他のブランド資本の商売も、テレビとのタイアップで人気を煽ることが常態となった。いわゆるブランド商品やチェーン展開なども、実質的にはこの一種。原価は他の無名商品と大差ないのに、それを信用名目に大量生産・高額販売するのだから、どこの企業もブランド化を企図するのは当然だった。

 しかし、これらはすべてもう過去の話。いまさら鉄鋼業や電器産業を興そうという人がいないのはなぜか、よく考えた方がいい。ブランド型資本のかけ算商売では、たしかに才能のある者は想像を絶した収入を得る。だが、アタリとハズレの差が大きい。たとえば、映画業界でも、スターとワナビとでは雲泥の差。概して、関係者全員の収入の総和を、その総人数で割ったものが、その業界に新規参入する者の収入の期待値。人の動機はカネだけではないが、これが世間一般の平均収入と均衡するところまで、新規参入者は増える。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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