家族や部下はなんでも知っている

2010.07.24

仕事術

家族や部下はなんでも知っている

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/うまくいっているなら、家族や部下はなにも口をはさまないかもしれない。だが、あなたの行動が尊敬に値するものでなければ、それは、家族や部下をカネに換えて売り渡しているようなものだ。/

 『孟子』にこんな話がある。毎晩、夫の帰りが酔って遅い。問えば、誰々家に招かれた、どこそこ家で御馳走になった、と、上機嫌で答え、みやげものまでもらった、と言って、妻に差し出す。うちの夫は、それほど偉い方々に認められているのか、と、妻も感心していたのだが、どうもおかしい。そういう偉い方々から家に連絡のひとつもあったためしがないのだ。不審に思って、妻は夫の跡をつけた。すると、夫は、名家が居並ぶ墓所に行き、あっちの供え物を食いあさり、こっちの捧げ酒を飲みほし、やりたい放題。こんな浅ましい男とは知らなかった、と、妻は陰でひたすら嘆くばかり。

 べつに昔の話でもあるまい。高級レストランなどで、彼女が化粧直しに立った間に、会社宛の領収書をもらっている男たちは、何度も見かけたことがある。世間で問題となっているような天下り法人で高禄をはむのも似たようなものだ。昼近くに出て来て、茶を飲みながら新聞を読み、昼休みが数時間。戻ってくると電話を数本。遅くなるから戻らない、と言い残し、夕方前にはタクシーでどこかへ消える。仕事と言えば、季刊の薄っぺらな冊子の発行と、年一回の親睦パーティだけ。

 本人はうまく立ち回っているつもりなのだろうが、本当にそうか。以前住んでいたところの近くに、新興の超高級住宅地があった。一軒一億円は当たり前とウワサされた。だが、そのあたりの子供たちのすさみようが半端ではなかったのだ。懇意の本屋の店長の話だと、とにかく万引きがあまりに多い、と言う。親に連絡しても、逆ギレし、大声で怒鳴り散らして、カネを叩き付け、こんなちっぽけな本屋には二度と来てやらない、と捨てセリフを吐く。そうでなくても、周辺には、どこかでだれかが盗んできた自転車があちこちに放置されている。小さな魚たちが泳いでいた小川も、投げ捨てる空缶やゴミクズで埋め尽くされた。登下校途中の子供の間でのイジメに、私も見かねて声をかけたことが何度もある。

 子供は、親の生き方には口を挟んだりはしまい。妻にしても、それで自分も良い暮らしができているのなら、夫に文句を言うのははばかられるだろう。だが、口で言わないからといって、気づいていないわけではあるまい。みんな、わかっているのだ、こんな人は、尊敬できない、と。部下もそうだ。浅ましい上司の立ち振る舞いは、本人以上に、よくわかっている。ただ、それが上司である以上、本人に面と向かっては言えないだけだ。そして、その沈黙の憤懣は、家族や職場をすさんだものにしていく。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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