時間的資産形成のすすめ

2010.07.18

仕事術

時間的資産形成のすすめ

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/フローの仕事は、あなたが死んでいた時間。経験としてストック化される仕事こそ、あなたが生きた時間。そして、ストック化された経験資産こそが、キャリアとなって、面倒な仕事を軽減してくれる。/

 『七つの習慣』で有名なスティーヴン・コヴィー博士によれば、我々は《急ぎの仕事》と《大切な仕事》とを混同してしまっている。世の中には、たしかに《急ぎで大切な仕事》もあるが、《急ぎだが大切ではない仕事》、《急ぎではないが大切な仕事》、そして、《急ぎでも大切でもない仕事》もある。問題は、目先の《急ぎで大切な仕事》ばかりに追われていると、《急ぎではないが大切な仕事》がおろそかになる、ということだ。それで、コヴィー博士は、《大切ではない仕事》を削れ、と言うのだが、忙しい人は、そんなの、とっくに削っているよ、もうめいっぱいなんだ、と答えるだろう。

 そこで、『七つの習慣』には書いてない話。時間は生のままではフローだが、塩漬けにすればストック資産化でき、何度でも再利用できるようになる。たとえば、学歴なんてその典型。入学まで、そして、卒業までがんばれば、あとは一生ものだ。小さなところでは、机の上の整理整頓。たしかに片付けそのものは手間だが、それで、いちいちモノを探す面倒が省ける。その後の長い通算を考えれば、一念発起してやってしまっておいた方が絶対に得だ。

 とくに家族や友人との関係形成は、《急ぎではないが大切な仕事》。それは、まさに時間だけが熟成させるもの。一見、むだのように思える何気ない会話やふれあいこそが心の通い合いを生み、おたがいにかけがえのない相手となっていく。そして、いったん共有された思い出は、いつまでも消えることのない貴重な宝物になる。

 今の時間を未来に投資する。投資だから元本は無くならない。それでいて、そのリターンは、その都度に得られる。簿記や語学の勉強だとか、人脈や理念の構築だとかもそうだ。これらは、その後の知見のベースになるもので、いったん身につけてしまえば、いくら使っても減らない。それどころか、使えば使うほど、増えて濃くなる。逆にこういう仕事のベース形成を怠ると、聞いてもわからず、見てもわからず、ザル人間になって、《急ぎで大切な仕事》すら疎漏するようになってしまう。

 また、こういう時間の経験的ストック資産こそが、フローの《急ぎで大切な仕事》を軽減してくれる。きれいに片付いた机なら、いつものところにいつものように文具が収まっていて、すぐに取り出せる。わからないことがあれば、いつものように親しい専門家の友人に電話でちょっと教えてもらえばいい。「エスタブリッシュメント」と呼ばれる人々は、こうのように時間をストック化した大きな経験資産を持っているがゆえに、まさにエスタブリッシュドなわけだ。そして、これこそ、ノンキャリア組とキャリア組の分岐点。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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