ワニの涙:ウォークスvsチャヴス

2020.03.23

営業・マーケティング

ワニの涙:ウォークスvsチャヴス

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/登場人物たちのキャラクター付けから生活行動、あちこちの陳腐なクリシエ・エピソードの寄せ集め、そしてファッションまで、きっちりC層の生き写しで、その共感を得るようにターゲットオンされている。W層が騒がなければ、それなりにうまくC層に騙し売りおおせたのではないか。/

タイミングがどうこうではなく、問題の背景には、日本の、というより世界全体の経済文化的マーケティング・セグメントの大きな変化がある。

現代のマーケティングは、生活文化水準(学力ではない)65以上のE層、64~51のW層(ウォークス、Wokes)、そして、49以下の、もっともボリュームのあるC層(チャヴス、Chavs)に分かれる。そして、近年の地上派テレビや新聞雑誌・書籍などの印刷媒体は、このC層に向けられて作られている。これに対して、W層は、自分たちがマーケットから切り捨てられたと怒ったわけだが、もとより広告代理店のターゲットなどではなかったことを喜ぶべきなのではないか。

戦後、マーケティングと言えば、もっともカサの大きい中産層、生活文化水準の偏差値60~45あたりのボリュームゾーンを主軸としてきた。年々、定期昇給と年功昇格のある安定職業があり、学校の勉強についていける子供たちを抱えて、家なりマンションなり、ローンで自宅を買える、余裕と向上のある家庭だ。しかし、現代は、この中産層が上下に分裂し、かろうじて既存体制にぶら下がっている55以上の家庭持ちのW層と、49以下で将来性を失って個人に分断された流動的なC層になった。

このW層の分断の兆しは、すでにバブル期に現れつつあった。シンボリックに言えば、私立高組と都立高組、ユーミン派とサザン派。生活水準60以上のE層に憧れ、そのまねごとをしようと背伸びする層と、そこまでがんばれないが、人並み以下にもなりたくないという層。どちらも結局、受験勉強や出世競争に巻き込まれ、日経新聞や朝日新聞、『アンアン』『ホッドドッグプレス』のような都会派雑誌を熱心に読んで、人にバカにされないように虚勢を張っていた。

これが、バブル崩壊後、明確に分断。『Begin』や『モノマガジン』『BE-PAL』、『JJ』、『メンズノンノ』のような前向きリア充系と、『宝島』のようなストリート反体制系に。しかし、前者は、さらにいち早くネットや海外旅行に繰り出して、みずからメディアより先を知るようになり、多様性のある八ヶ岳型クラスタになってしまった。このため、凡庸な大量複製の掛け算商売を事とするマスメディアや広告代理店は、後者、いわゆる「情弱」をマーケットとせざるを得なくなった。

くわえて、バブル後の氷河期で、E層がさらに遠のく一方、W層の足切りがあった。大学を出れば就職ができる、親と同じ程度の生活水準を得られる、というW層は、もはや生活水準55くらいまでで、それ以下は社会階層としての再生産も逆転も不可能となり、非正規未婚に甘んじざるをえなくなった。この層が、ロワークラスと合流して、いたずらに時間を消費するだけのサブカルC層を形成し、主流のW層を「意識高い系」などと揶揄するような強いルサンチマンを抱くようになった。一方、W層の方も、脱落C層を、自己責任の「負け組」と侮蔑するが、それはいつC層に転落するかわからない恐怖心の表れでもある。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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