カール・レーフラーの神学とその時代

2019.05.19

開発秘話

カール・レーフラーの神学とその時代

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/ウソは、隠すことにおいて、逆に真実を語り出してしまう。これは、解釈学の基本テーゼだ。この意味で、カール・レーフラーの「神学」問題は、なかなか興味深い。/

ウソは、隠すことにおいて、逆に真実を語り出してしまう。これは、解釈学の基本テーゼだ。この意味で、カール・レーフラーの「神学」問題は、なかなか興味深い。いまどき論文中に典拠を捏造するなどというのは、まったく気が知れないが、文献中の杜撰なウロ覚え引用なんかでいちいち驚いたり怒ったりしていたら、神学だの、哲学だの、やってられないはず。それどころか、まるごと捏造の偽書なんて、この業界には古代から現代まで、大量にある。筆写や校正での混乱まで含めたら、完全真正の文献の方が珍しいくらいだ。だから、むしろ偽書や怪しい引用から真実をどう読み解くか、そこに読む側の研究者の知性の水準が問われる。

先週5月10日、東洋英和女学院院長、深井智朗(ともあき)が研究不正を理由に懲戒解雇された。著書『ヴァイマールの聖なる政治的精神:ドイツ・ナショナリズムとプロテスタンティズム』(岩波書店、2012)で採り上げているカール・レーフラーが捏造である、とされたことなどによる。

カール・レーフラー。いかにもドイツ人っぽい名前だ。深井によれば、レーフラーは「今日の神学にとってのニーチェ」という論文を1924年に書いた、と言う。レーフラーは、使徒信条を拒否して、牧師の地位を剥奪され、1929年に自由キリスト者同盟という雑誌グループを立ち上げた神聖フロント世代の一人であり、その後も、その立場に留まって、同派から転向した者たちを批判し続けた、そうだ。

深井によれば、1924年のレーフラー論文は、弁証法神学(新正統主義)を提唱して注目を浴びていたカール・バルトの『ローマ書』(第二版、1922)を批判している。深井が記すレーフラーによれば、バルトは、ニーチェの超越論的な神の概念に基づき、人間中心のリッチュル神学を批判したが、バルトもまた人間の側の信仰の決断を土台とする以上、ニーチェの批判を免れえない、とされる。ここから、深井は、ヴァイマール時代、神聖フロント世代神学者たちは、ニーチェ思想こそ、真のキリスト教である、と考えていた、と主張する。

もとより半ばウソっぱちなのだから、なんのことやら、わからないのも当然。まず「ヴァイマール時代」というのは、第一次世界大戦に敗北した後のドイツのヴァイマール憲法の時代で、1919年からヒットラーが総統になる33年までを指す。この時代、リッチュルやバルトの神学がはやったのも事実。ヴァイマール時代の「フロント世代」という術語は、敗戦後の最前線を自認する世代として、ベッセルなどにも見られるが、「神聖フロント世代」なる術語は、深井による(「1913年のルドルフ・ブルトマン」(2013))。しかし、20年代にニーチェがはやった、というのは、どうなのだろう。もうすこし後なのではないか。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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