クラブを忘れたダイナース

2018.12.28

経営・マネジメント

クラブを忘れたダイナース

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/ダイナースはクレジットカード会社ではない。クラブだったはずだ。誰でも入れるような会は、誰も入りたがらない。ダイナースが生き残るためには、いっそ昔どおり、国家資格かMBA以上必須のように、あえて成金富裕層を蹴散らし、社会的信用のある限られたメンバーだけの上質のプレミアムクラブとなるような事業再認識が必要ではないか。/

ひとことで言えば、食事の味はもちろんながら、エスタブリッシュは、『GOETHE』の読者のような下卑た若手の成金連中、それにぶら下がっている「美人秘書」とかいう小うるさい馬鹿娘たちと食事でまで店を同じくしたくないから、いつでもどこでも好みの店を選べるように、自分で高い会費を払ってわざわざクラブに入っていた。にもかかわらず、ダイナースそのものが、自分たちの事業定義を誤り、エスタブリッシュがもっとも係わりたくないリスキーなやつらを中に引き込んだ。かつて会員の交流と休息と旅先での情報交換の場だった街中ラウンジは、世界中、のきなみ閉鎖。空港ラウンジも、他社のプレミアムカードと一緒になって、冷蔵庫の飲み物をごっそり強引に持ち出すような連中が跋扈。もはやかつての静けさは見る影もない。

クラブは、趣味趣向を同じくする者の社交組織で、ゴルフなどがよく知られたところだろう。近代においては、19世紀の後半、上流貴族の社交界とは別に、工場労働者や植民地成金とも異なるアッパーミドルクラスが成立し、かれらの社交場が必要になったことから生まれた。彼らは、まさに教授・医師・弁護士、実績のある企業の経営者や管理職など、レスペクタビリティ(きちんとしていること)に基づく階層。カネの力だけで言えば、たしかに成金にはかなわない。だが、堅実な定職に就いており、信用リスクは限りなく低い。また、育ちの悪い成金が持ちえない、幼少からの熟成を必要とする、落ち着いたクラシックな文化教養を趣味趣向としており、カネに任せて暴れ回る連中にジャマされない静かな場としてクラブを求めた。

たとえば、シャーロック・ホームズの兄、マイクロフトは、硬い会計監査院官吏で、「ディオゲネス(人間嫌い)クラブ」の会員。このクラブの中では、口をきいてはいけない。静寂こそがモットー。他のクラブも似たり寄ったりで、とにかく騒がしい連中、度派手な連中が大嫌いだから、仕事以外の時間は、みなそこに逃げ込んで、同好の士と静かに過ごすのが楽しみ。

日本にも「学士会」(1886~)なんていうのがあって、東大ないし旧帝大の卒業生だけの社交場となっている。最近の様子は知らないが、昔は四つ玉などという小難しいビリヤード台があり、工学出の御年配が器用にキューを操っていた。また、「交詢社」(慶応系、1880~)、「東京倶楽部」(鹿鳴館系、1884~)、「日本倶楽部」(国会系、1897~)、なども、紳士(アッパーミドルクラス)の社交場の老舗。あまり表には出てこないが、財閥の管理職のための倶楽部も古くからあり、「住友倶楽部」(1904~)、「三井倶楽部」(1908~)、「三菱倶楽部」(1914~)などが有名。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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