カルロス・ゴーンとドレフュス事件・パリ暴動:フランス百年のトラウマ

画像: ドレフュス大尉の不名誉除隊

2018.12.01

ライフ・ソーシャル

カルロス・ゴーンとドレフュス事件・パリ暴動:フランス百年のトラウマ

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/フランスの支配層、財界人や政治家は、ゴーンの一件に、ドレフュス事件を重ねて見てしまっている。しかし、フランスの庶民からすれば、ゴーンは「移民」であり、マクロンは「ユダヤの犬」。ただでさえルペンのような極右が勢力を増しているのだから、対応を誤れば、フランス国内にくすぶる反ユダヤ、反移民の感情に火を着けかねない。/

だが、96年、情報部長ピカール大佐は、これが部下のエスタアジ少佐の策謀であったことを知った。エスタアジもまた激烈な反ユダヤ主義者で、わざと筆跡をまねてドレフュスを陥れたのだ。とはいえ、これはこれで面倒な人物。エスターハージ伯爵家は、ユダヤ資本がバブルで荒らした東欧ハンガリーの事実上の領主。その一族が外人部隊を通じてフランス軍部に入り込み、それも、こんな人物を情報部に採ってしまっていたのだから、軍部としても、この事実をかんたんに認めるわけにはいかなかない。それで、むしろピカール大佐をチュニジアに左遷。

これが騒ぎになると、98年1月、無実を明らかにする、と言って、エスタアジ少佐本人がみずから軍法会議にすすんで出て来て、無罪を勝ち取ってしまう。それで、文豪ゾラなど、人権派知識人たちが新聞などで軍部を糾弾。だが、同年8月には、エルツ同様、エスタアジが英国へ逃亡。軍部は、重大な機密情報を含む、として、資料の開示を拒む。かくして、ドレフュス事件の真相を巡って、世論は沸騰。再審を求める声が上がる一方、作家ジュール・ヴェルヌ、画家エドガー・ドガら、国権派知識人たちが露骨なユダヤ人攻撃を展開。さらには、すべてフリーメーソンの隠謀だ、などと言い出し、わけのわからない妄想推測で、敵か味方か、国論は二分され、一触即発の状況となった。

結局、翌99年9月、首相特赦で、とりあえずドレフュスは釈放。だが、無罪を勝ち取ったのは、7年後の1906年。少佐として復帰するも、獄中の劣悪な環境で体を壊してしまっており、翌年、除隊。その後、ナチスが登場したときも、かんたんにフランスが敗北したのは、狂人ヒットラーに振り回されたドイツ以上に、フランスにもともと根強い反ユダヤ主義の協力者が大量にいたから。ドイツは、完全敗北でユダヤ問題を解消したが、フランスは、戦後の反動の反ユダヤ主義者弾圧で、かえってユダヤ問題の矛盾を国内に温存し、戦前以上に助長してしまった。

それで、フランスの支配層、財界人や政治家は、ゴーンの一件に、ドレフュス事件を重ねて見てしまっている。かつて自分たちが無実のドレフュスを悪魔島監獄に送って殺しかかった悪夢をかってに日本に投影し、自分たちの過去の罪業を贖おうとしている。しかし、フランスの庶民からすれば、ゴーンは「移民」であり、マクロンは「ユダヤの犬」。ただでさえルペンのような極右が勢力を増しているのだから、対応を誤れば、フランス国内にくすぶる反ユダヤ、反移民の感情に火を着けかねない。いや、もう着いてしまっているのかもしれない。だから、日本が、その一方の言い分を真に受ければ、連中の内乱の巻き添えを食らう。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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