クールジャパンのウソ!:売物ジャポニズムvs見えざる日本の美

画像: photo AC: JAKUTAKU さん

2019.07.09

ライフ・ソーシャル

クールジャパンのウソ!:売物ジャポニズムvs見えざる日本の美

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/マンガやアニメは、戦後の反古典主義的(反戦前的)サブカルチャー。そのファンが世代的に社会から退場しつつあるために、市場は高齢化し、規模も縮小してきている。海外においても、ファンは「負け組」であり、例外的少数は富豪コレクターになるかもしれないが、大勢としては、趣味変革を起こすほどの力を持ちえない。/

士族や豪農の不平不満は、過激な自由民権運動に直結する。そこで、明治政府は、海外輸出可能性を担保として、このような士族や豪農の美術品資産の再流動化を急務とした。このため、龍池会(日本美術愛好家団体)を創設。82年、お雇い外国人フェノッローザ(フェノロサ、1853~1908)に講演させ、日本美術品こそ価値がある、と言わしめ、貿易不均衡改善のために、日本美術の製作振興と輸出促進を図り、87年の東京美術学校開校に至る。

しかし、これは、大きな失敗に終わる。龍池会は、83年、84年と、パリで日本画の展覧会を開いて、その販売を目論むが、まったく売れなかった。というのも、日本人が〈日本の美〉として売り出そうとしていたものとヨーロッパの〈ジャポニズム〉において〈日本の美〉とされていたものとの間には、大きな齟齬があったからである。日本が輸出を目論んだのは、上述のように退蔵停留してしまっている下賜美術品、ないし、それに相当するものを意味していた。だが、ヨーロッパ側が歓迎したのは、浮世絵や雑技団、芸者踊り、金鯱、大仏など、きわめて〈キッチュ〉(俗物)なものばかりだった。

ヨーロッパにおいても、〈キッチュ〉は、1870年代の新しい概念だった。日本の68年の明治維新と同様、71年の普仏戦争でナポレオン三世が敗れ、近代封建貴族社会の最後の残滓が断たれる一方、第二次産業革命の財界人と、これに仕える中産階級、労働階級が台頭。芸術においても、貴族をパトロンとせず、画廊で作品を売り、コンサートでチケットを売るアーティストたちが数多く現れる。美術では写真の登場で、遠近法や陰影法による写実主義が意味を失い、代わって、彩度の高い化学絵具を駆使した印象派が台頭。音楽においても、重厚長大な交響曲よりも、軽快でリズミカルなワルツやポルカが好まれるようになる。

これらの新興階層の嗜好は、旧来の重厚なクラシック派(没落貴族)から侮蔑的に「キッチュ」(俗物)と呼ばれた。この趣味に、江戸の町人文化の中でも奇天烈度派手な〈カブキ(傾ぶき)〉なもの、「外連(けれん)味」のあるもの、とくに高彩度の多色刷りでデフォルメ著しい浮世絵(歌舞伎絵、芸者絵、枕絵、景物絵)がフィットした。つまり、〈ジャポニズム〉は、日本本来の伝統文化が受け入れられたのではなく、天下泰平の江戸時代の、先行する社会の階層変化で生み出された〈キッチュ〉=〈カブキ〉なものへの趣味が呼応したと言うべきだろう。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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