新規事業における素朴な疑問 (10) 民主主義的態度を装うリーダー

画像: 小田原評定

2016.06.22

経営・マネジメント

新規事業における素朴な疑問 (10) 民主主義的態度を装うリーダー

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

経営者は孤独なもの。そして新規事業を背負うリーダーというのは経営者の気概を持って事業メンバーを引っ張っていく必要があり、政治家的な振る舞いは不要だ。ましてや「民主的組織運営」を装うだけの優柔不断さは害毒にしかならない。

新規事業の推進責任者に抜擢された比較的経験の浅い人材が、気負い過ぎてなんでもかんでも独断専行で決めてしまうので、誰も付いてこなくて立往生してしまう、という話を時折聞く。だからといって、その逆に部下の意見をまんべんなく取り入れようとしたらどうなるか。

新規事業の企画段階ではよくあることだが、どれだけ様々な客観的データを集めて潜在客の意見を聴収したとしても、それ以上は客観的に頼れるものはなく、最後は主観的判断で決めなければいけない場面がある。例えば、売り出す製品のデザインであり、サービスの重要なユーザーインターフェースのあり方である。

また新規事業の運営の初期段階でよくあるのは、当初想定通りにいかないことが判明し、早急に修正しなければいけないのだが、どうすればいいのか誰にも正解が分からない場面だ。例えば、思ったように客数が伸びないので価格付けを変えるべきなのか、販促方法を追加・変更すべきなのか、それともチャネルそのものを考え直すべきなのか…。

いわば、暗くなりかけた山道で分かれ道に立って、右か左のいずれを選ぶべきかを決めなければいけない状態である。しかも懐中電灯もないため、迷ってばかりいると途中で暗闇に閉ざされてしまい、立往生してしまうことが確実という事態だ。

事業の主要メンバーは既に「自分はこう思う」という意見とその根拠は口にした。それぞれの立場と限られた経験に拠った意見なので、圧倒的な説得力は誰にもない。神ならぬ身でありながら事業の将来を左右する判断をするのだから、あとは最も幅広い情報に触れているはずの責任者に判断を委ねようという気に周囲はなっている。

この段になっても、部下に対し「どう思う?」と再び意見を繰り返させ、一向に判断できないリーダーの姿を目にしたら皆、どうなるだろう。いわゆる「小田原評定」の状態になってしまうのだ。

もしくはそれぞれの意見をつなぎ合わせただけの中途半端な折衷案でお茶を濁そうとしたらどうだろう。先ほどの例でいえば分かれ道の中間に突っ込むようなもので、確実に遭難してしまうだろう。

ある程度行き先が見えている既存事業においてさえ、意思決定のペンディングは緊張感と責任感に欠ける組織運営をもたらしかねない。それでも既存事業の場合、日常的な運営に迷うことが少ない分、しばらく時間稼ぎをしていてもパニックになることはない。秀吉の大軍が攻めてくるわけではない。

しかし時間との過酷な競争を余儀なくされる新規事業においては、こうした立ち止まっている時間が長いことは、それだけ競争者に先行を許すリスクを高めることを意味する。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。新規事業の開発・推進、そして既存事業の収益改善を主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/               弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashinban/            最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/

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