iPS細胞最新事情「iPS細胞で何ができるのか」

2016.03.29

ライフ・ソーシャル

iPS細胞最新事情「iPS細胞で何ができるのか」

竹林 篤実
コミュニケーション研究所 代表

2014年9月、患者のiPS細胞からつくった網膜細胞の移植手術が、世界で初めて行われた。これでiPS細胞の実用化が一気に進むと期待されたものの、ビッグニュースは今のところ聞こえてこない。けれども、iPS細胞を活用する研究は、驚くほど多方面で着実に進められている。中でも、いま最も期待されるのが、がん治療への活用だ。

臓器も再生できる?

iPS細胞による治療といえば、よく想像されるのが臓器などの再生だろう。実用化までには、まだいくつも課題があるが、その一つが、iPS細胞から必要な臓器を再生するのにかかる時間である。

例えば脊髄損傷を受けた人の脊髄を、iPS細胞で再生する研究が進められている。ここでもネックとなるのが時間である。脊髄損傷の治療は、損傷してから2週間から4週間の間に行うのが望ましい。ところが患者自身からiPS細胞を作っていたのでは、治療に必要な量ができるまでに半年以上かかってしまい間に合わないのだ。

時間の問題を解消するために、iPS細胞をストックする計画が進められている。他人の細胞から作られたiPS細胞は、免疫反応を起こすことが問題とされていた。そのため再生医療における安全性を考えれば、自分の細胞から作ったiPS細胞を使う方が望ましい。けれども、それでは時間的に間に合わないケースが出る。

そこで、CiRA(京都大学iPS細胞研究所)は、再生医療に使用できる汎用性のあるiPS細胞の製作に取り組み、昨年8月より提供を始めている。もちろん、このiPS細胞が全ての人に安全というわけではなく、今のところは日本人の約17%については免疫反応が少なく移植可能とされる。CiRAでは、2017年度末までに日本人の3~5割程度をカバーできる再生医療用iPS細胞ストックの構築に取り組む計画だ。

がん治療の切り札「免疫細胞」再生

再生医療以外にも、iPS細胞には大きな期待が寄せられている。中でも注目されるのが、iPS細胞を活用したがん治療だ。

がんは、1981年から日本人の死因第一位であり、毎年約30万人の人が亡くなっている。恐ろしい病気だが、これを発症するメカニズムは、細菌やウイルスが体内に入ることで引き起こされる感染症とは根本的に異なる。

がんとは、自分の体の中にあった正常な細胞が異常な状態(=がん細胞)になることによって引き起こされる。しかも、がん細胞は実に巧妙な生存戦略を持っている。

体内に発生したり侵入した異物に対しては、通常なら免疫が働く。これにより、外部から入ってきた毒素や細菌などに体は対抗する。免疫には、敵を見つける役割のものと敵を攻撃する役割のものがある。

ところが、がん細胞は免疫に対して2つの強みを持っている。免疫に見つかりにくい上に、そもそも対抗できる免疫自体が少ないのだ。これを裏返せば、がんに対する治療法となる。つまり、がんを見つける免疫と、がんと闘う免疫を作って、体内に入れるのだ。

免疫も細胞であるから、iPS細胞によって作り出すことができる。がんと戦うTリンパ球からiPS細胞を作り、再びTリンパ球を作ればよいのだ。ここでiPS細胞の特長である、無限に増やせるメリットが生きてくる。

もちろん、実用化までには、まだいくつかの課題を解消しなければならない。けれども、今年(2016)2月、CiRAはiPS細胞から免疫細胞の一種であるiNKT細胞の作成に成功した。自分の免疫機能を活用したがん治療なので、副作用の心配もない。iPS細胞を活用することで、がんを克服できる日も、そう遠くないことが予想される。

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