コンセプチュアル思考〈第5回〉 抽象的に考える/具体的に考える

画像: Career Portrait Consulting

2016.03.22

組織・人材

コンセプチュアル思考〈第5回〉 抽象的に考える/具体的に考える

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

概念を起こす力・意味を与える力・観をつくる力を養う『コンセプチュアル思考』のウェブ講義シリーズ

その定規の実体は、「プラスチック製」だったり、「透明」だったり、「厚さ1.5mm」だったりと、さまざま要素をもっているのですが、私たちはその中から「三角形」という要素だけを抽象しました。また、合掌造りにしても、「茅葺き屋根である」「ずっしりと重い感じ」「家の中は炭火のにおいがする」などの特徴がいろいろあるのに、それらを捨てて「三角形」という特徴だけを引き抜いたのです。そして3つのものを「三角形」という概念で括って把握したといえます。

さて、ここで一つ大事なことがみえてきました。何かを引き抜くことは、同時に何かを捨てることだということです。これを「捨象(しゃしょう)」といいます。



例えば、「その戦争で10万人が死んだ」というとき、これは抽象的な表現です。その死んだ一人一人を具体的にみていけば、10万通りの悔やむに悔やまれない死に方があったはずです。ところがそれらの様子をすべて捨象して、数字的に10万人が死んだと抽象したわけです。戦争の悲惨さを伝えるときに、「10万人」という規模を前面に出すのは抽象的な訴え方です。他方、一人一人の様子を細かに伝えるのは具体的な訴え方になるわけです。いずれにせよ、抽象と捨象はつねにセットです。コインの表裏といってもいいでしょう。


◆抽象度を上げるとあいまいさが増すのはなぜか
さらにミニワークをやってみましょう。

〈ミニワーク〉


「ヒト」「キリン」「カエル」「ミジンコ」「サクラ」と並んでいます。そこでまず「ヒト」と「キリン」を括る〈共通性A〉は何でしょうか。次に「ヒト」と「カエル」を括る〈共通性B〉は何でしょうか。そういう具合に〈共通性C〉〈共通性D〉に入る言葉を考えていきます。

答えの一例をあげると、順に「哺乳動物」「脊椎(せきつい)動物」「動物」「生き物」です。この作業もまた、①個々の外観や性質から特徴的な要素を引き抜き、②共通の要素で括り、③ラベルを付けるという抽象化の思考です。ここでもラベルに与えた「哺乳動物」「脊椎動物」といった言葉こそ、概念というべきものです。


図をみてわかるように、より幅広く物事を括ろうとすればするほど、抽象度は高くなっていきます。そしてラベルには、その分、幅広い意味の言葉や大きな概念を持ってこなければなりません。そのために、そこにあいまいさが出てきたり、ぼやけた感じが出たりします。それは共通性Aの「哺乳動物」と、共通性Dの「生き物」とを比べてみても明らかでしょう。後者のほうが漠然としています。抽象的という言葉が「あいまいでわかりにくい」という意味を帯びるのは、こういうところに一因があります。

次のページ◆抽象と具体の往復運動

続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

フォロー フォローして村山 昇の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。