『脳はなぜ「心」を作ったのか』前野隆司(筑摩書房) ブックレビューvol.7

2016.03.22

ライフ・ソーシャル

『脳はなぜ「心」を作ったのか』前野隆司(筑摩書房) ブックレビューvol.7

竹林 篤実
コミュニケーション研究所 代表

瞑想がブームである。かのスティーブ・ジョブズも、日常的に瞑想をしていたという。瞑想を行うと心が落ち着き、心に余裕ができるそうだが、本当だろうか。そもそも、脳の中の仕組みは未だによくわかっていない。脳とは、心とは、そして意識とは一体なんだろう。

「リンゴの特徴は、色、形、動き、陰影、質感といった因子に細かく分けて別々に処理されたあとで統合されている」(同書、P58)。だとすれば、統合しているのは誰なのか。それが、自分の意識なのだろうか。

ここで驚くべき実験結果が引用される。仮に、あなたが指を動かそうとするときのプロセスはどうなっているのだろうか。脳が「指を動かせ」と指示した結果、指は動く。そんなの当たり前じゃないか、というなかれ。

脳内の電位を計測した結果は、その順番が逆であることを教えてくれる。つまり「なんと、「無意識」下の運動準備電位が生じた時刻は、「意識」が「意図」した時刻よりも350ミリ秒早く、実際に指が動いたのは「意図」した時刻の200ミリ秒後だったのだ」(同書、P76)

つまり、まず無意識のスイッチが入り、脳内の活動が始まる。この無意識のスイッチを入れているのが、脳内の小びとである。

ここで、当然、次の疑問が湧きあがるはずだ。では、その小びと一体、誰の命令を受けているのか? 小びとに命令を出す存在、それこそが意識(「私」と読んでも良いのかもしれない)ではないのか。驚くべき結論を著者は主張する。

小びとたちを統率する存在はないのだと。

多数決で動く小びとたちと都合の良い錯覚

そんなバカなと思って当然、私の行動を統率しているのが、私ではないとしたら、一体誰が(何が)私の行動を決めているのか。筆者は「小びとたちの多数決」だという。具体的には、ニューラルネットワークによる学習効果が総合的にもたらす結果である。

では「私」とは、「意識」とは何か。小びとたちの行動結果をながめて、その行動を「自分がやった」と錯覚するメカニズムが「私」あるいは「意識」の本質だと本書は説く。

だとすれば、なぜ「意識」が必要になるのか。「「意識」は無意識の結果をまとめた受動的体験をあたかも主体的な体験であるかのように錯覚するシステム」(同書、P115)だからだ。それが生存に有利であったために、そのように進化した結果である。

小びとたちの体験が自分を作る

「ニューラルネットワーク(すなわち小びと)のつながり方や発火しやすさは、その後の学習によって後天的に変わっていく」「だから、(小びとたちが何を体験するかが決まる)育つ環境は人格形成のために重要だ」(同書、P123)

ニューラルネットワークが脳内で発生するメカニズムは、誰もが同じであるのに、その後の考え方が一人ひとり異なるのは、生まれて以来の体験のせいである。

では、最近流行りのAIも脳と同じように作ることができるのではないだろうか。要するに、ニューラルネットワークに似せた回路をコンピューター内に作り、そこでさまざまな経験をさせる。人が一日24時間かけて行っている小びとたちの活動を同じことをコンピューターにさせれば、人のようなAIが誕生する。

2004年に出版された本書に、その答えは記されていない。けれども、いま著者に尋ねれば、どのように答えてくれるだろうか。脳や心、心霊現象などに興味のある方は、ぜひ一読されることをおすすめする。

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