消費税論議にみる財務省の深謀遠慮

画像: 財務省HP

2015.09.29

経営・マネジメント

消費税論議にみる財務省の深謀遠慮

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

財務省案の評判は散々である。確かに「軽減税率に関する代替案を提示せよ」というお題からは外れている。しかし「与党の議論を振り回す」という隠れた目的は既に達成している。そして真の目的である「軽減税率の導入」へと議論は向かいつつある。財務省の筋書き通りに事は進んでいるのではないか。

2017年4月予定の消費増税時に合わせて導入する軽減率案として財務省が提案した「日本型軽減税率制度」に対しては、与党からも識者からも批判が轟々と上がっている。

いわく「マイナンバーカードを持ち歩くなんて、消費者にとって面倒さとリスクが大きすぎる」「小売業者全てに読み取り装置導入と面倒な事務作業を強いる」「必要なインフラコストが無闇に高すぎる」「そもそも負担感の軽減にならない」などと散々である。ネット上にも「だから役所の連中は」といった憤慨する声が溢れている。

しかし財務省というお役所はやたらと頭のよい(しかも狡猾な)「官僚中の官僚」たちが集まった中央官庁である。過去、様々な策を弄して多くの政治家を言いくるめ、マスコミを通じて世論の方向性を操作してきた、その経験・ノウハウの蓄積は生半可なものではない。しかもその中でも主税局といえば、役所の予算を握る主計局と並んで、エリート部門だ。

そのエリート官僚たちが、この素人でもおかしいと感じる穴だらけの案を、これがベストだ、是非実現させたいと本気で考えたとは小生にはとても思えない。

決して一部の政治家たちが言うような「机上論に過ぎない」「財務省の役人は世の中を知らない」などというナイーブな(世間知らずな)提案であるはずがない。むしろこの案自体は「目くらまし」である可能性が高い、と考える次第である。

そう考えてみると、明らかに軽減税率制ではない内容なのに「日本型軽減税率」などという人を食った名をつけるのも、かなり確信犯的である。つまり批判され、潰されることを前提とした提案なのである。

その狙いを考える前に、財務省の立場をおさらいしよう。

周知のように、財務省は国家の財政を預かる役所である。その影響力の源は、各中央官庁に対する予算案査定の権利を握っていることと、国税庁を傘下に持っていることで税金逃れをしがちな政治家や企業を脅す手立てを持っていることである。

財政再建を錦の御旗にしていることも周知の通りである。ここで世の中的には勘違いが生じやすい。財政再建を絶対命題とする役所だから、「消費税再増税の実現」にはもちろん賛成であり、かつ税収入を減らす要素となる「軽減税率の導入」には反対だと。財務省案に対する批判の中にも、「あれは『軽減税率潰し』の陰謀だよ」という解説もまことしやかに飛び交っているらしい。しかしそれは「美しき誤解」とでもいうものだ。実は財務省は「軽減税率の導入」に賛成の立場なのだ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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