医療ビッグデータが開く未来/PEST分析から読む近未来vol.2

2015.07.27

営業・マーケティング

医療ビッグデータが開く未来/PEST分析から読む近未来vol.2

竹林 篤実
コミュニケーション研究所 代表

<PEST分析のT> ビッグデータが注目を集めている。これこそは21世紀の魔法の杖、うまく扱えば何でもできるともいわれる。特に期待されるのが医療分野での応用だ。もしかすると医療ビッグデータはこの先、病気になる人をゼロにできるかもしれない。

1人あたり900項目✕1万人✕20年で何が見えるのか
『ながはま0次予防コホート』


滋賀県長浜市で、チャレンジングな取り組みが行われている。同市に暮らす30歳から74歳までの市民1万人を対象として、5年ごとに4回、合計20年間もの長期にわたって徹底的に医療健康関係のデータを収集する。

とにかく集めるデータの種類が半端ではない。一人あたり、質問票による環境・生活習慣情報が742項目、生理学・血液学・生化学測定値が145項目、合計約900項目ものデータを集める。さらに1万人のうち約3700人に対しては、約30億塩基対のゲノムスキャンも行われた。

900✕10,000(万人)✕4(年)=3600万。このうちの3700検体分に関しては、ヒトゲノム30億文字が掛け合わされる。さらに第2期からは希望者に対して頭部MRIを撮ることも決まっている。京都大学と長浜市による長期プロジェクトによって構築されるのは、まさに医療のビッグデータベースである。

データの大海の中から何が見つかるのか

このプロジェクトでは、参加する市民に対して大きなメリットが与えられる。何しろ一人あたり150項目もの精密検査をしてもらえるのだ。血圧ひとつとってみても、普通に血圧計で測るのではなく大動脈波速度検定や中心血圧測定が行われる。一般的な健康診断では受けられない高度な診断を無料で受けられるのだ。
定期的に頭部MRIを撮ってもらえば、認知障害を起こしたとしても、ごく初期段階で発見できる可能性が出てくる。その時点で直ちに治療を施せば、その後の進行を食い止めたり、少なくとも遅らせることができるだろう。

一方で、医療研究サイドの期待も極めて大きい。仮に認知症をターゲットとするなら、質問票による認知症テスト、血中代謝物などの血液検査データ、MRI画像データを突き合わせて分析することにより、認知症のバイオマーカーが見つかる可能性がある。
もちろん新たなバイオマーカー発見の期待は、認知症だけにとどまらない。社会的問題となっているうつ病、乳がんや前立腺がんなどあらゆる病に関して、画期的なバイオマーカー発見の期待が寄せられている。

環境・生活習慣とゲノム情報とバイオマーカー


とはいえバイオマーカーの発見だけが、医療ビッグデータの目的ではない。真の目的は、病に苦しむ人をこの世からなくすことだ。

例えば、どこかで特定のがんについて新たなバイオマーカーが見つかったとする。その際に『ながはま0次予防コホート』に蓄積されたデータが生きてくる。すなわちデータを検索し、特定がんのバイオマーカーを持つ人がどうなったのかを、蓄積されたビッグデータと突き合わせて追跡・検証するのだ。これにより、そのがんに関する知見が一気に深まる。該当するバイオマーカーを持つ人の環境・生活習慣なども合わせてみていくことで、がん治療に関する研究が大きく進むだろう。

すでに特定の遺伝性疾患については、ゲノム解析により将来その疾患を発症する可能性の有無がわかるようになってきている。もちろん、該当する遺伝子を持っているからといって、必ずしもその疾患を発症するとはかぎらない。

しかし、ゲノム解析に環境・生活習慣情報やその他の検査データを組み合わせてみることで、新たな知見を得ることができる。仮に痛風の発症遺伝子を持ち実際に発症した人がいたとする。その場合は発症者の生活習慣を追跡していけば、どんな生活習慣が病気発症の引き金になるのかを知ることができるだろう。

めざすのは究極の理想「先制医療」


2015年4月、京都で開催された「日本医学会総会」では、医療の今後を考えるテーマとして、20の柱が設定された。その一つとして取り上げられたのが先制医療である。これは医療に関する従来の概念を根底から覆す画期的なコンセプトだ。

これまでの医療とは、あくまでも発症した病気を治すために行われてきた。これに対して先制医療は、何年か先に発症が予想される病気の芽を、事前に摘み取ってしまう。といえば予防医学と勘違いされるかもしれない。予防接種とは、抗原物質(ワクチン)を投与して、特定の病気に対する免疫をつけることである。つまり病気の発症を前提とし、万一の場合に対抗できる仕組みをあらかじめ体内に作っておく。これが予防接種の狙いだ。

しかも予防接種は基本的に不特定多数を対象に行われる。ところが、先制医療の対象は、集団ではなく特定の個人であり、病気の発症そのものを許さない。

まだ何も発症していない健康な段階で、ゲノム解析や各種バイオマーカー解析を行い、その人の環境・生活習慣データを突き合わせる。これにより、その人が将来、どのような病気を発症しやすいかを予知できる。ということは、発症前から何らかの医療的処置を施したり、環境・生活習慣を改善することで、病気の発症を抑えることができる。

これが先制医療のコンセプトである。

世界の人口が約70億人、そのうち病に苦しむ人たちがざっと20億人いるとしよう。従来の医療がこの20億人を対象とするものだったのに対して、先制医療の対象は、病気になっていない50億人になる。先制医療により病気の発症を防ぐことができるようになれば、病気治療はごく一部の難病だけを対象とするようになるかもしれない。そうなれば、医療費を大幅に抑えられる可能性も出てくる。

ある意味、究極の理想的な医療といえるのが先制医療であり、これを実現するためのカギを握っているのが、医療ビッグデータなのだ。

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