TPPにおいてISDS条項は制御できるのか

画像: vov5

2015.07.29

経営・マネジメント

TPPにおいてISDS条項は制御できるのか

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

世上取沙汰されている交渉事項に隠れているが、TPPの本当の問題点はISDS条項である。妥結を焦るあまり、うっかり受け入れてしまうと、国の政策が振り回されてしまいかねない危険をはらんでいる。先進国を含む多国間協定にこの条項は相応しくなく、もし訴訟乱発を防ぐ歯止め策をきちんと構築できないのなら、むしろ排除すべきである。

安全保障関連法案の取扱いで支持率を急低下させた安倍政権が今、政権再浮上の鍵を握ると注力しているのがTPP(環太平洋経済連携協定)交渉の妥結である。

この交渉においては日米2大国間の交渉が注視され、米国産のコメの日本への輸入拡大や日本製自動車部品の関税撤廃が懸案とされてきたが、7月24日に始まった主席交渉官会合では事務レベルの調整にまで進んでいる模様だ。残ったイシューの中では、医薬品などの知的財産の保護期間が主な対立軸とされている。

しかしこれらの報道に隠れながら、日本を含む参加各国により深刻な衝撃を与えかねない、全く別の論点がある。それがISDS(Investor-state dispute settlement=国家と投資家間の紛争解決)条項である。

これは海外企業を保護するために内国民待遇が適用されるもので、これにより当該企業・投資家が損失・不利益を被った場合、国内法を無視して世界銀行傘下の国際投資紛争解決センターに提訴することが可能となるというものである。

この条項の危険性に関しては一部の専門家がずっと指摘しており、ネット上では散見されるトピックだが、一般にはあまり注目されてこなかった。

ここで注意を要するのは、ISDS条項というものは先進国と途上国が投資協定を結ぶ際に含まれることが多く、それ自体に問題があるどころか、むしろそれがないと先進国の投資家は安心して途上国に投資できないという必須条項だ。日本も過去に数多く途上国との間で締結してきており、特段何の問題もなかった(だから何の心配もないという向きもあるが、それは締結相手の違いを無視する暴論といえる)。

しかしながら、これが多くの先進国を含む多国間協定であるTPPで適用されると、元々固有の社会・経済制度が確立しているために別の問題を引き起こす。特に国際的辣腕弁護士チームが数多く存在する訴訟大国・米国が絡むと、一挙にややこしくなるのである。

何が問題なのか。端的に言うと、社会的要請に基づく国の規制に足かせをはめられる形となってしまうことである。新規の規制導入だけでなく、既存の規制や制度そのものが米国の特定大企業にとって不都合である場合には訴訟が相次ぎ、やがて機能不全となる可能性すらある。

例えば、米国の大メーカーが日本で生産する製品に含まれる成分や機能特性が、消費者に健康被害や物理的危険をもたらす可能性が高いことがTPP成立後に分かったとしても、米企業からの訴訟を恐れて日本の監督官庁は規制に踏み切れないかも知れないという話である。薬でも食品でも、建材でも雑貨でも家電でも、皆同じである。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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