閉塞の時代にこそ大学で哲学を

2015.04.15

ライフ・ソーシャル

閉塞の時代にこそ大学で哲学を

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 芸術学部 哲学教授

/今年、萩本欽一さんが大学に入ったとか。人生や社会の当たり前を疑って、よくわかっていないということがわかると、そこから新しいパラダイムが見えてくる。賢ぶって無理な見栄を張り続けているのを止め、大学でちょっとバカに学んでみることも、ときには大切。/

 プラトンはこう言った、カントはこう考えた、って、いまさらそんな現実離れした昔の人の変な話ばっか並べられても、なんの役にも立たないよ、現代科学だけやっていれば十分、そもそも大学なんかよりネットの情報の方がずっと詳しい、大学の先生は世間知らずのバカばっかだ、って言うけど、そりゃそうだよ。大学って、バカばっかだよ。バカのためにこそ大学はあるのだから。

 古代ギリシアの昔から、オレはなんでも知ってる、なんでも聞いてくれ、君に人生を教えてやろう、これで勝てる、これで成功できるという、とっておきの秘訣を伝えてあげよう、という自己啓発のグルみたいなのがいっぱいいた。彼らは「ソフィスト(知恵者)」と呼ばれ、街々で法外に高額の講演会をやって、人々から大金を巻き上げていた。でも、それ、ホントか、よくわかんないぞ、と言って出て来たのが、ソクラテスみたいな「フィロソフィスト(知恵渇望者)」。つまり、もともと知恵が無いから、バカだから、哲学者。

 「パラダイム」なんていう言葉を聞いたことがあるだろう。野球とかサッカーとかいうのは、みなパラダイム。同じトランプで、七並べもできれば、ポーカーもできる。人生や社会も同じこと。体力が有り余って、なんでも冒険してみたい若者と、家族を守り、仕事をやり遂げたい大人、残り少ない余生を最後まで深く味わいたい老人とでは、同じ人生でもゲームがまったく違う。生まれながらの身分世襲社会と、どんな方法を使ってでもカネを儲けたヤツが勝ちの資本主義社会、組織の中で他人を蹴落として昇進すれば身分もカネも手に入る立身出世社会もまた、それぞれ別のゲーム、別のパラダイム。

 あるパラダイムが主流になり、そこでさまざまな工夫が試されると、やがておおよその必勝法ができあがってくる。こうなると、その必勝法を徹底的に磨き抜いた連中の最先端の戦いになるが、ゲームの競争からこぼれた連中の方の不満が高まり、こんなの、つまんねぇよ、なあ、みんな、別のゲームやろうぜ、って、パラダイムの大転換が起こる。

 問題なのは、あるパラダイムにどっぷり染まると、そのパラダイムでの必勝法は当然絶対のもので、それ以外の可能性はありえない、考えられない、となってしまうこと。しかし、そこには、そのパラダイムの中であれば、という大前提があって、じつはそのパラダイムの方はすこしも当然絶対ではない。

 地球から夜空を見ていた時代、その動きを再現するために精緻複雑な天球儀が探求された。しかし、ガリレオが出て来て、地動説という新パラダイムになると、地球の方が太陽のまわりで自転、公転している、という話になった。ニュートンが、天界も地上も運動法則で理解できる、と、二つの研究ゲームを統一。そしてアインシュタインは、時間も空間も互換性がある、と、さらに統一。じゃ、最新最先端の現代科学だけ勉強すればいいじゃん、と思うかもしれないが、世界がのっぺりとエネルギーで満ちた空間なのか、それとも、粒々と真空の隙間でできているのか、いまだに両方の研究ゲームが連携しながら並立していたりする。人生だって、世襲ゲーム、資本ゲーム、昇進ゲームのように複数のものが絡み合って同時進行している。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 芸術学部 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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