十年後の自分のアドバイス

2014.11.23

仕事術

十年後の自分のアドバイス

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/外に敵を求めてケチをつけているだけでは何にもならない。本当の問題は、今のダメな君自身。それを救えるのは、十年後の結果を知っている君だけ。/

 あいつがあんなことやったって、絶対にうまくいかない。いや、うまくいかないのは、おまえがジャマをするせいだろ、って、それ、どっちもヤツ当たりじゃない? 政治家って、なんでどこも人の党の批判ばっかりやっているんだろう。そして、君も、似たようなヤツ当たりばかりやっているんじゃないの?

 外に目標を見定め、それを乗り越えていくことで自分を高める。これは、フィヒテやヘーゲルが考えた外的弁証法。マルクスなんか、さらに派手に、資本家を倒せば労働者の世の中が来る、って、ぶち上げた。個人でも、ライバルや試験、賞など、自分の目標を高く掲げ、それを引き寄せることで自分を引き上げようとする人は少なくない。高い山にロープを架けて、それを引っ張れば、自分が登れるはず、というわけだ。とはいえ、実際は、自分より上にある物、上にいる人になんでもロープを引っかけ、それだけで、それより上になった気になっているだけのやつばかり。でも、それじゃ、すこしも登っていないし、ロープがすべって、君の頭の上に落ちてきただけ。

 ヘーゲルやマルクスが全盛の十九世紀半ば、外的弁証法とは反対のことを言い出した哲学者がいた。キルケゴール。ガチのクリスチャンで、人間は自力救済はできない、神が肉として生まれ、肉として死んだことにすがってこそ、人間も救われる、というキリスト教の原点を重んじた。これが、その後の実存主義では、宗教色抜きになっていく。内的弁証法、と呼ばれるものだ。

 ようするに、ダメな君が、他人を批判してみたところで、その批判自体がダメ。ダメな君が、目標を決意してみたところで、その決意自体がダメ。いくらやっても、ぜんぶ空回りする。あんなやつより、おれの方が、とか、よし、酒は止めよう、とか言ったところで、具体的には何にもならない。だから、また明日もまったく同じように、他人の批判だの、目標の決意だのを振り回しているだけ。そして、明後日もそうだ。

 ほら、十年前を振り返ってみてごらん。君は、やっぱり、今と同じ、そんなことばかりやっていたじゃないか。この十年の結果を踏まえてみれば、十年前が失敗だったのは一目瞭然。でも、いまの君なら、もっと具体的に、ああしておけばよかった、こうしておけばよかった、と思うことも、いろいろあるんじゃないか。

 それは今も同じこと。今のダメな君には、今のダメな君を救う力など無い。だったら、十年後の君に救ってもらえ。今のダメな君を、十年後の君に丸のまま貸してやれ。ごちゃごちゃ反論したり、質問したりせず、十年後の君が今のダメな君に、こうしておけばいい、ああしておけばいいと助言してくれることを、そのまま素直に実行しておけ。実際、この手、かのスティーヴン・キングがやっている。あまり恵まれた少年時代、青年時代ではなかったが、貧困と虚弱、アル中を克服し、いまの成功を掴んだ。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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