海外を向く中小企業 (12) 漂流するタイ国にどう向き合うべきか

画像: Paul_the_Seeker

2014.05.24

経営・マネジメント

海外を向く中小企業 (12) 漂流するタイ国にどう向き合うべきか

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

ついに軍によるクーデターにまで行き着いたタイ。どうやらタイの軍部は局面打開のため周到に機会を窺っていた模様だ。事態も行方も不透明だが、日本の官民にはやるべきことがある。

一方、すでに現地に進出している企業関係者などはずっと、この「大人げない小競り合い」の状況に少なからずいらだちを覚えていたが、軍によるここまでの急展開は全くの予想外だったはずだ。

東南アジアに近年構築されたサプライチェーンに、そのグローバル生産体制が相当依存している日本企業は少なくない。また、戒厳令と夜間外出禁止令で「商売あがったり」になる店やサービス企業も少なくなく、この先どうなるのか、現地日系企業の関係者は不安にさいなまれているはずだ。

現地に多くの企業が進出し、駐在員家族も多い日本はこの事態に対し、彼らの安全が第一に優先されるよう、軍主体の暫定政権に対し日本政府が要請すべきであることは当然だ。

しかし政治的立場に関してへたな形でくちばしを挟むことには慎重になるべきだろう。米国のように、クーデターに対し単純に非難するだけでは、自国民向けのアリバイにはなっても、事態の打開に対し何の貢献にもならない。他国のクーデターと違って権力掌握そのものを目的としない(はずの)タイ国軍からは「俺たちの苦心・苦労を分かりもしないで」との反発を生んで、コミュニケーション・チャネルを閉ざすだけに終わってしまう。

かといって日本人に対する危害や日本企業に直接損失が発生することさえなければいいやと、この混乱する情勢に対し頬かむりするような態度では、民生移管後の付き合いにおいて信頼を深めることはできない。

経済的損得だけを気にする従来の視点を超えて、タイに民主政治が復活し、分断された社会が再生するよう促すことが、同国に多大な利害と関心を有する親密な友人としての日本には求められている。いわば家族が大喧嘩して傷つけあっている近所の家に対し、最も付き合いの深い隣人として節度を保ちながらも踏み込んで、これ以上の事態の悪化を許さないために呼び掛けるべきなのだ。

具体的には、外交ルートと民間ルートの両方を通じて明確なメッセージを送るべきだろう。特に、(1)日本は常にタイの人々の友人であってその友人たちが互いに傷つけ合わないことを心から願うこと、(2)「不測の事態」を招かないよう両派の人々および軍の自重を要請すること、の2つが大前提だ。

そして(3)軍が今回果たそうとしている、国家の「緊急避難」のための役割認識に理解を示した上で、今後軍が(4)一方の政治勢力に偏らず真に公正な調整機能を果たし、(5)民生への早急な復帰を目指すことを求めること(したがってそれに沿った行動を取っているかを注意深く監視すること)、(6)そのための協力ならば日本は喜んで行うことを伝えるべきだ。

一方で、シビアな認識も突き付けるべきだ。つまり(7)万一懸念する「不測の事態」が発生した場合には、日本として心ならずも様々な協力停止措置を取らざるを得ないことだ。

それは多くの日本人と日本資本が現地から引き揚げることを意味するが、同国がこれ以上混乱すれば否応なしに現実となる話だ。そしてこれはタイ国軍もよく理解しているはずの「避けるべきシナリオ」だ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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