社会インフラを考える (3) 道路の新設はせず、維持管理を優先せよ

画像: Jill Lee

2014.03.19

経営・マネジメント

社会インフラを考える (3) 道路の新設はせず、維持管理を優先せよ

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

日本の道路インフラはこれから危機的状況を迎えようとしている。今ある分の維持だけでも膨大なコストに上りそうで、今の体制・予算ではとても面倒を見切れない。それでも新設したい自治体は、国に頼らない方法を模索すべきだ。

では橋や道路そのものについては大丈夫なのだろうか。少なくとも高速道路の上をまたぐ陸橋のうち、全く点検されていないものが全国に635本あることが、昨年9月に会計検査院に指摘されている。約3500本については、陸橋を管理する自治体などの点検状況を高速道路各社が把握していないことも同時に判明している。そして小生の知る限り、普通の自治体では道路インフラに関し日常的な点検・予防措置は行っておらず、住民やドライバーから破損や崩落を指摘されてはじめて現場状況を把握し、修復の手配をするのが精一杯だ。

維持管理責任者という観点でいうと、高速道路を含む有料道路は各道路事業者が、国道は国交省の地方整備局が、それぞれ専門家を擁して(そして予算を確保した上で業者を使って)メンテナンスをしているので、コスト高以外の問題はあまりないと考えられる。問題は県道(都道府県)・一般道路(郡市町村)のレベルで、特に後者だ。先に触れたように、道路インフラに関する専門的知識を持ったスタッフもおらず、予算も絶対的に不足しているのが実態だからだ。

道路インフラも通常の建築物と同様、適切なタイミングでの補修ができずに先延ばしすると、却って後々大規模な補修・作り直しが必要となり、トータルで見るとコスト増につながりやすいものだ。ましてや破損が引き起こす事故・渋滞、災害による被害増大の恐れも高まる。同じような道路インフラの老朽化に80年代に直面した米国では、橋が落ちたり道路が陥没したりした事故が頻発した。日本でもそうした事態に直面しつつあるのだ。

もともとインフラ維持コストを深く考えないままに、景気対策も兼ねて全国で道路建設を押し進めた国土交通省と地方自治体、土建屋票依存の政治家たちの浅慮と先見のなさが、ここにきて露呈しているとも云える。とはいえ実際に困るのは、道路が陥没したりトンネルの壁がはがれたりして事故や通行止めに遭遇するドライバーであり、トラック輸送によるサプライチェーンが切断されてしまう企業および消費者だ。

社会保障費がブラックホールのように税金による歳入を飲み込もうとする現在、道路関連予算の総額に余裕がなく、建設・維持コストが共に高騰しつつあることを考えると、優先度からいって道路の新設は極力抑制することが、政策方針として最低限必要だ。ましてや道路や橋は一旦作ってしまうと、後々のメンテナンスコストはばかにならないし、建物のように途中で使用中止ということが難しい代物だ。そもそも人口縮小時代を迎えたニッポンで、道路新設が必要なケースは稀なはずだ。それに「国土強靱化」の看板に付け替えていようと、公共事業による景気カンフル剤を続けることは無理・無駄だと、我々は数年前の自民から民主への政権交代時に学んだはずだ。

全国的にみて交通量が多くもなく急増してもいないにも拘らず、どうしても道路を新設したい自治体は、自らその建設コストをほぼ全額負担するか(つまり国による建設や補助金をあてにしないということ)、道路通行の有料化とPFI(Private Finance Initiative)手法を併用して、利用者から回収可能な範囲で行うべきだ。実際にそうした手法で新たに建設できる道路は多分ごく稀なので、それによって我々の社会にとって「身の丈に合った」道路インフラだけに絞られていくはずだ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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