佐村河内のものは佐村河内に

2014.02.18

ライフ・ソーシャル

佐村河内のものは佐村河内に

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 芸術学部 哲学教授

/だれが著作者かは、その発意と責任で決まる。だれが実際に作業しようと、それはただの work for hire で、著作者たりえない。だが、発意そのものがパクリの寄せ集めとなると、そもそも著作物の定義を満たさない。/

 この問題、どうもドシロウトたちが引っかき回して、無用にややこしくしてしまっているようだ。新たなワルが、わざわざ「ゴーストライター」だの、「共犯者」だの、世間の誤解を招くようなスキャンダラスな表現で、次の金儲けを狙っているのも気に入らない。

 S村氏(生身の人間)が楽譜が書けない、楽器が弾けない、だからうんぬん、などというのなら、大阪城を作ったのは豊臣秀吉じゃない、大工さんだ、みたいな小学生並みのトンチ話になる。石一つ運ばず、釘一本打たずとも、それどころか本人は死んでしまっていても、クフ王のピラミッドはクフ王のものだし、金閣寺を作ったのは足利義満だ。なぜそういうことになるか、というと、著作者の定義は、実際に手を動かしたかどうかではなく、一般に(映画に限らず)、その発意と責任で決まるから。つまり、アイディアを思いついて、かつ、その完成にカネを満額払った人のもの。ペンキ屋のような work for hire (カネで依頼された仕事)は、他人の創作意志に服従するものであり、したがって、その創造性は依頼者の側に帰することになる。(途中で支払を踏み倒した場合は、完成意志の挫折なので、この限りではない。)

 でも、実際に作ったのは私だ、だから、私のものだ、というような左翼の労働価値説的な誤解は、しばしば大きな紛争になる。有名なところでは、1999年から争われた『宇宙戦艦ヤマト』を巡る西崎義展と松本零士の裁判。当然、西崎が勝訴。同年には『キャンディ・キャンディ』でも、水木杏子といがらしゆみこで争われ、これまた当然に水木が勝訴。もしも、こんな作業者の理屈を認めたら、あなたが苦労して建てた家まで、大工のものになってしまう。とはいえ、逆に、裁判に依らず、実力行使で左翼が実質的に勝ってしまった例もある。1975年の『フランダースの犬』は、『アルプスの少女ハイジ』と同様、高橋義人の発意で始められたが、本橋浩一、宮崎駿、高畑勲らの主要製作現場スタッフが別会社に移ってしまい、その完成責任を果たせる目途が立たなくなるように高橋を追い込み、まるまる乗っ取りに成功した。

 日本では、米国と違って製作現場に口約束が多く、このために、依頼のはっきりしない法人と、実際に動く生身の人間との間で、work for hire を巡る揉め事が起こりやすい。そこで、八手三郎(76~、東映の特撮シリーズ)、矢立肇(サンライズのアニメ)、東堂いづみ(東映アニメ)のように、持ち株会社のような架空の著作者を明確に立て、これを法人の共同ペンネームとして引き継ぐことが行われている。逆に、近年はかつて実在した生身の人間である長谷川町子や臼井儀人、やなせたかしなども、同じような扱いになってきている。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 芸術学部 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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