しまむらのマニュアルが進化し続ける意味

画像: Tamaki Sono

2013.09.02

経営・マネジメント

しまむらのマニュアルが進化し続ける意味

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

株式会社しまむら。「ファッションセンターしまむら」の運営会社として今や有名企業であるが、意外とその実像は捉えにくい。BPM(継続的業務改善)のエバンジェリストとしては、同社はとても興味深い研究対象である。オペレーショナル・エクセレンシーの代表企業としての同社の象徴である「マニュアル」をキーワードに、その凄さの秘密を探ってみた。

しまむらにおいてマニュアルが「不磨の大典」扱いされずに進化し続けられる要因は複数ありそうだ。

何よりもまず、マニュアルの目的が従業員の負担軽減と効率化にあることだ。同社では「仕事を楽に」を合言葉として、働きやすい職場づくりのためにマニュアルを改訂している。

(少なからぬ会社で現れたように)効率化が人減らしと労働強化につながる恐れありと従業員が考えた途端、業務改善を提案する動きは止まってしまうはずだ。しまむら・野中社長の言によると、「早く仕事を切り上げて家族団らんができる」ようにするためなのである。

だから万一、マニュアルを改訂することやそれを覚えること自体が過大な負担になるとしたら本末転倒である、と普通は思う(実際、辞めた人の中には、同社のマニュアルへの執着度とその負荷に付いていけなかったと語る人もいる)。

しかし同社では少し捉え方が違うようだ。これを理解するには同社内でのロジックをもう少し考察してみる必要がある。

もう一つの主要因は、「仕事=改善されるもの」「マニュアル=改訂されるもの」という仕事観が社内に浸透していることだろう。

「仕事=決められた作業をこなすこと」と考えるような職場ではマニュアルは進化しない。しかしそのベースにあるのは、マニュアルを改訂すること、そしてそのために業務改善を提案するという行為そのものが、最重要な仕事の一つと捉えられているということである。

この点が先のマニュアル改訂への執着度の理由を解き明かしてくれる。

以前、インテルが絶好調だったときに有名になったのが"Only the paranoid survive"(極度の心配性のみが生き残る)という言葉だった。それをなぞれば、同社には「マニュアルを改善し続けることができる会社だけが生き残る」といった感覚が広く共有されているのではないか。

その意味で同社は「マニュアル改善パラノイア」といえるレベルにあるかも知れない。

マニュアルは、うまく使えば「組織学習」の風土を創り上げるための効果的なツールともなるし、組織が大切にする価値の象徴ともなるということを、しまむらのケースは教えてくれる。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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