店で「おあいそ!」というオヤジに、新人教育ができるのか?

2012.03.14

組織・人材

店で「おあいそ!」というオヤジに、新人教育ができるのか?

川口 雅裕
組織人事研究者 /NPO法人「老いの工学研究所」研究員/一般社団法人「人と組織の活性化研究会」世話人

研修で学んだ受講者にとっての最大の難関は、学んだ内容と異なることが行われている現場であり、学んだことを実践させない上司である。

「おあいそ」は、もともと飲食店で使われる隠語で、勘定の際に「愛想なしで(行き届かなくて)申し訳ありませんでした」と表現するようにしていたところから来ている。お客様からお金をいただき、お見送りする際のビジネスマナーと言ってよい。

しかしこれを客の方から言ってしまうと、「愛想を尽かしたから、もう精算してくれ」「カネを払うから、愛想をせい」といった意味になってしまう。だから、大きな声で「おあいそ!」と言うオジサンと、「〆て」「会計して」「チェックして」「勘定して」「いくら?」などとスッと言うオジサンでは、何かレベルの違いを感じざるをえない。

もちろん、言葉には移り変わりがあり、「おあいそ」も今や単に「計算して」という意味合いになっているのだから、そんな小さなことに目くじら立てるのはオカシイという考え方も分かる。しかしビジネスでは、違和感を覚える人がいるなら無視できない。「・・・で、よろしかったでしょうか?」に対する批判をコンビニやファミレスが無視できなかったように、「おあいそ」も取引先との会食などがあるビジネスパーソンにとってどうでもいいことではない。

ネットで調べてみると、前者は北海道・東北の方言であるとか、文法的には間違っていない(婉曲表現としての過去形)という話もあるようで、単なる捉えようとも言えるのに対して、後者は語彙や相手への心遣いに関わる問題であり、格好の悪さという点では「おあいそ」が上のように思える。

4月になると、ほとんどの会社で新入社員たちがビジネスマナー研修を受講する。電話応対や言葉遣いや接遇、名刺交換や身だしなみなどが定番のコンテンツだが、業界や職種の違いがあるので、そのまま実践したら、顧客や職場が違和感を覚えるようなことがある。そこで相手がどう感じているかを把握し、修正することが求められる。

一般的な常識や定型を身につけたところで、前提として「相手がどう思うか」という視点とそれを感じる感性がなければ学んだことを効果的に実践することはできない。その意味で、取引先の感じ方や店側の気分を害することを考えない「おあいそ」は、ビジネスマナーの精神を否定しかねない言葉だ。

一般に、研修で学んだ受講者にとっての最大の難関は、学んだ内容と異なることが行われている現場であり、学んだことを実践させない上司である。現場と上司が、研修を形骸化させる。マナー研修で学んだ新人たちを上司が飲みに連れて行って、「おあいそ」と言っているのは、相手がどう感じているかは大した問題ではないとメッセージしているのと同じだ。

いつか新人たちも、上司と同じような言い方で「おあいそ」と言うようになり、相手がどう感じるかを軽視するようになる。毎年のように新人にはビジネスマナー研修を実施しながら、一向に社内に変化が見られないのは、そのような上司の言動が原因だ。新人が「おあいそ」と言っているのを見て、その意味とマナーとは何かを教えてやるくらいの上司がいて、初めてビジネスマナー研修の効果が表れてくるのである。

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川口 雅裕

組織人事研究者 /NPO法人「老いの工学研究所」研究員/一般社団法人「人と組織の活性化研究会」世話人

組織人事関連(マネジメント・リーダシップ・人材育成・採用)や、高齢者・高齢社会をテーマとした講演を行っています。

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