上司は、なぜ部下の弱みばかり気になるのか?

2011.09.07

組織・人材

上司は、なぜ部下の弱みばかり気になるのか?

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

部下の強みに焦点が当てられないマネジャーのパラダイム。

ドラッカーの有名な言葉に、「強みに集中せよ」がある。意味の一つは、個人にしても組織にしても、苦手や弱みを普通レベルや得意となるまで引き上げていくことはとても難しいので、強みを更に伸ばすほうが効果的である、ということ。もう一つは、「組織のメンバーが同じような強みを持っていても、それは外から見れば弱みがある状態」であって、逆に「各々が異なる強みを持てば、外から見て弱みがない状態にすることができる」ということだ。

ところが、多くのマネジャーはこれが出来ない。強みに焦点を当て、それを伸ばしてやるほうが良いのは分るが、その前に、担当業務を任せられるレベルになってもらわないと困る、と言う。部下は、その仕事の難しさに比べてスキルが足りない状況であり、とりあえず今の段階では、その弱みを放置しておくとマズイ、と考えるようだ。ところが実際には、そのように言う(「まずは弱みの克服が重要で、強みに焦点を当てるのはそれからだ」)マネジャー達は、いつまでたっても弱みの克服をメンバーに要望している。多分、多くは強みに焦点を当てる気はないのだろうと思うし、それがマネジメントのスタイルとして染み付いてしまっているようだ。

多くのマネジャーがそのようになる理由は、3つ考えられる。一つ目は、業務遂行には高い関心を示すが、組織開発(チームワーク)に関心がないことだ。業務の状況や個別のスキルを評価・管理することには力を注ぐが、組織の士気向上や活性度合い、シナジーの創出には目が向かないし、どうしたらいいかも分からない。個別に見て、その知識や技術の物足りない部分を嘆くだけではなく、言動やパーソナリティにおいて長けている部分を見出し、それを活かせる役割やミッションを創り出し、与えることが出来ないのである。

二つ目は、無難を価値としていることだ。ミスやトラブルがないこと、間違いがなく効率的であること、何事もつつがなく、予定通りであることを大切にしている。無難に終わらない可能性があること、リスクが少しでもあることはやらないし、やらせない。無難に仕事が進むためには、強みを伸ばすことなど意味はなく、ミスの原因となる弱みを克服してもらうことが一番大切だ。彼らにとっては無難が価値であり、失敗や成功には価値がないのである。こうして、実は自ら部下を経験不足に陥らせ、成長を遅らせているのにもかかわらず、その弱みをまた嘆くのである。

三つ目は、自分が優秀だと思いたいからだ。マネジャーとしてその立場にいる根拠を、「メンバーと同じことをやったら、自分のほうが上手くできること」だと考えている。視点や視野、権限や役割が異なるから、それなりのことをしなければならない、というのではなく、自分の方が腕がいいのがマネジャーたる所以だと思うのは、精神的に楽だ。マネジャーになってもメンバー時代とやっていることが何も変わらない人は多いが、自分の方がデキルことが明らかになるから、そこに留まっているのだろう。当然、まだまだ自分には及ばないことをよりどころにするためには、部下の弱みに焦点を当てる必要があるわけだ。

強みに焦点が当てられないのは、部下のレベルが低く、弱みが無視できないほどだからではなく、マネジャー自身のパラダイムに問題があるからだ。組織開発(チームワーク)への無関心、無難を価値とする仕事ぶり、メンバー時代と同じステージに居続けることが、どうしても部下の弱みに目がいってしまう原因なのである。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

「高齢社会、高齢期のライフスタイル」と「組織人事関連(組織開発・人材育成・人事マネジメント・働き方改革など」)をテーマとした講演を行っています。

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