「交渉をなめた」菅首相の末路に見る交渉モデル構造

2011.06.06

ライフ・ソーシャル

「交渉をなめた」菅首相の末路に見る交渉モデル構造

増沢 隆太
株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

菅首相がうっちゃりで鳩山前首相をだまし討ちにして逆転勝利か、に見えた不信任案騒動。さらに逆転が起きました。前回コラムで指摘した「交渉構造」を欠いていた首相一派の稚拙な戦術が証明されたといえます。

前回のコラム「交渉をなめるな!菅首相の後出しジャンケンは勝利ではない」が出た時、その逆の「騙された鳩山」「菅、大逆転勝利」「菅と仙石の戦略勝ち」といった報道が踊りました。
http://www.insightnow.jp/article/6588
私は交渉の大原則に反した、「単にYesを言わせたら勝ち」という戦略思考のカケラもない強引な筋引を批判し、交渉として成り立っていないことを指摘しました。

鳩山前首相を始め、小沢派以外の中間派や果ては閣内からすらこのだまし討ちに批判の火が上がり、野党も交えその燎原の火はこの週末で大炎上に拡大しました。
菅首相は交渉に失敗したのです。交渉戦略を描くことが出来ず、詐欺商法まがいの「ハイって言っただろ」合意で押し切れるという浅薄な手法はやはり通じなかったのです。

人の心をつかむこと、それは決してキレイ事ではなく、交渉の基本中の基本なのです。人を騙してサインさせる、ハンコを付かせても、それは交渉成功ではなく、ただの犯罪に過ぎません。さすがに一旦辞めると言っておいて、やっぱりあれは無し、という一般社会ですらあり得な低レベルな「言った言わない」論争に持ち込むという幼稚極まる論法は通用しませんでした。

「論理的に正しい」ことは人を説得する上では欠かせません。しかし人間は理論だけでは動かないのです。ビジネスをしていると、どうしても論理先行で、論理的に正しいのだから通って当然、という心境に陥りがちです。しかし論理的に正しくともそれだけで説得は完了しません。
相手の心をつかむことが出来なければ、ただの詐欺商法、だまし討ちなのです。相手が後で気づいて悔しがる、というのは一見相手の負け、相手の愚かさのように見えますが、交渉の視点では違います。
その交渉構造が未完成だったのです。

後で気づいて反論されることすら読み解き、こちらからその点を押さえ、相手の納得の上で進める。公平で公正ですべてが見える透明な交渉構造を提示すること。これが成功できる交渉です。
政治家ともあろう者が人の心をつかめない、それだけで菅首相一派の枝野官房長官も岡田幹事長も仙石副長官も皆同罪です。政治家としての素養は著しく欠けていると思います。

田中角栄は生前、野党にすら影響力を持っていたと言われます。その源泉はカネ。政治資金無しに選挙が出来ないのは常識。落選候補に田中角栄は何百万かの現金を届けさせ、その受け渡しにおいて秘書が、みじんでも「金をめぐんでやる」という空気を発したらそのカネは全部死ぬ。このようなものをお受取りいただけないことを承知の上で、曲げてお願いします、ぜひお受け取り下さい、という姿勢で土下座をして選挙資金を渡したという話を聞いたことがあります。

真実かどうかは知りません。しかし「人たらし」と呼ばれた田中角栄らしい、人を動かすことを知り抜いた交渉だと思います。表面的には政敵同士、争うことがあっても、このような人心掌握が出来るリーダーが、かつての自民党にはいたのです。

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増沢 隆太

株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。

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