似て非なるリスクマネジメントと危機対応

2011.04.19

経営・マネジメント

似て非なるリスクマネジメントと危機対応

中ノ森 清訓
株式会社 戦略調達 代表取締役社長

前回、震災を理由にジャストインタイム生産(JIT)を見直し、在庫を積み増すのは止めた方が良いというお話をした。震災を機に、JITを止め、在庫を積み増すという誤った考えが喧伝されるのは何故だろう?マネジメントに携わる人間は、この問題にどう臨むべきだろう?

こうした誤った議論がなされるのは、想定できるリスクに対応する狭義のリスクマネジメントと東日本大震災のような危機対応のクライシスマネジメントがいっしょくたに議論されていることが一つの原因と考える。マネジメントに携わる人間であれば、これらは分けて考えなければならない。

上記のリスクマネジメントとクライシスマネジメントは、トラブル、危機にどう対処すべきかという広義のリスクマネジメントに何れも含まれるが、狭義のリスクマネジメントとクライシスマネジメントは実は水と油のようなもの。なぜなら、狭義のリスクマネジメントは、「トラブル、危機は予知できる、或いは確率論で予測できる」という立場に基づいて、フレームワークや手法が設計されている。一方、クライシスマネジメントは、危機には、予知できないもの、もしくは頻度が少なすぎてその発生を確率では測れないものもある。だから危機って言うんじゃない?」という立場。東日本大震災、福島第1原子力発電所の事故を目の当たりにした今ならば、発生を予知、予測できない危機があるというのは、誰もが同意できるのではないか。マネジメントに携わる人間であれば、どのような状況でも企業の存続を考えなければならないので、クライシスマネジメントも含めた広義のリスクマネジメントの立場に立ち、予測できる危険と予測できない危機の両方への対応を考えなければならない。

単なる言葉遊びのように思われるかもしれないが、この違いは実は非常に大きい。なぜなら、狭義のリスクマネジメントのような態度だけで危機に臨むのは非常に危険だからだ。その危険は、狭義のリスクマネジメントの前提の中に潜んでいる。狭義のリスクマネジメントは、トラブル、危機を予め想定できるというのが大前提。つまり、「私には、あらゆるトラブル、危機、森羅万象を見通すことができる」という、ある意味、傲慢とも言える態度だ。こうした過信がいかに脆いことか。そうした不遜な考え方は「事故は起こって欲しくない、起きてはならない」という願望と容易に交ざりあい、起こるはずがない事故、危機が起こった時に備えることを拒み、万が一、それが起こった時に被害を拡大させたり、回復を遅らせたりする。こうなると、その被害はたとえ天災がきっかけであろうが、人間がもたらした事故、人災だ。

では、クライシス(危機)にどう備えるか。矛盾しているようだが、まずは、「危機には備えられない」という事実を受け入れることから始めよう。備えられないから、リスク(危険)ではなく、クライシス(危機)なのだ。だから、「何が原因かは良く分からないけど」「そんなことは起こる訳がないという意見もあるのは分かるけど」、「万が一、こんな事故、災害が起こったらどうなるのか、何が起こるかのか」「万が一、当たり前だと思っていたものがなくなったらどうなるのか、何が起こるのかを」考えてみよう。そうすると、危機が発生した後に生じる混乱が、すべてではないけれど、多少は予測ができるリスクとなり、危機の拡大、拡散を少しは抑えることができる。

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中ノ森 清訓

株式会社 戦略調達 代表取締役社長

コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます

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