人気の秘密は「ニッチなプチ提案」

2007.10.17

営業・マーケティング

人気の秘密は「ニッチなプチ提案」

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

日経トレンディ11月号に長野県白馬村「ホテル五龍館」の記事が掲載されていた。 老朽化した施設、落ちる一方の客足という状況から、奇跡の自立回復を遂げた観光ホテルだ。

状況が厳しくなってくると、旅行代理店への依存度が高まり、客室の回転率は多少回復するものの、高マージンを持っていかれ利益率がガタガタになる。
もしくは、設備の若返りや目玉施設を増築してキャッシュが底をつく。
または、その両方。
無理な起死回生はやはり成功率が低いのが現実。

しかし、「五龍館」はそのどちらの選択肢も取らなかった。
代理店依存はジリ貧を招くといち早く自力集客に徹し、直接予約率80%、リピート率50%を達成。
設備増改築もほとんどしていないという。

詳しくは本誌を確認して欲しいのだが、ポイントは「分かりやすいサービスのパッケージ化とその提案」にあると読み取れた。

同誌の記事によると、五龍館の夏休みの人気プランのひとつは「キャンプ」。二泊中、一泊は村営キャンプ場に設置したキャンプサイトを利用する。
準備・片付けは全てホテルのスタッフ任せなので、本格的なキャンプに躊躇する利用者に大好評という。
ホテルは一泊分が自社施設を使わないため、実際の客室数以上の集客ができる。

さらに、客室のうち、大人二人では狭く人気がなく稼働しない部屋を利用したプランも人気だ。

ひとつは「いつも頑張ってる私のために!元気に変身!女のひとり旅」と題する、一名宿泊、室内エステ施術付きのプランに利用する。
もうひとつは「“遊び盛りの10代の少年”と“働き盛りの父”の二人旅」という、カヌーでホタルを見るというアクティビティーがセットされてプラン。
いずれも黙っていたら利用されない客室が人気の部屋に化けるマジックである。

他にも心暖まる「手描きパンフレット」「手作り軽食」「ミニイベント」など工夫満載だが、何と言っても、同ホテルの真骨頂は先にあげたキャンプや利用者を特定したパッケージだろう。

キャンプは未経験者は面倒を考えて躊躇する。
女の一人旅も、考えた事はあっても実行には移しにくい。
父と子の二人旅など、漠然とした夢はあっても、具体的なプランなど考えた事はないだろう。

そうした、自分では踏み出さない一歩を、五龍館は「○○なあなた、是非来てください!」と誘う。
○○なあなた、は該当者には、名指しのような効果がある。
「排他的メッセージ」という。
そして、その人にぴったりの提案を行う。

誰にでも該当する提案ではない。だが、極めて特殊な内容でもない。
適度なニッチさと、ターゲットの琴線に触れる訴求がポイントなのだ。

ハコ売りではなく、サービスを売れ。ソリューション・ビジネスだ。という掛け声は数多くの業種で言われている。
しかし、大上段な掛け声の割りには成功例は多くはない。

だが、この長野の小さな観光ホテルが、自分たちを取り巻く制約条件をうまくきっかけにして、顧客に響く提案に変える事例を見せてくれている。
やはり、基本は的確な自己戦力分析と、「顧客をよく観ること」に尽きるのだろう。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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