将棋ソフトが女流王将を下す。変わるコンピュータと人間の関係

2010.10.20

経営・マネジメント

将棋ソフトが女流王将を下す。変わるコンピュータと人間の関係

中ノ森 清訓
株式会社 戦略調達 代表取締役社長

コンピューター将棋ソフトが女流王将に勝利した。この裏には、情報処理技術の進歩がある。その方向性は、人間の思考をまねる人工知能的なものではなく、純粋にコンピュータの迅速な計算能力を活かすというもの。そして、そうした情報処理技術は、実は、調達・購買、サプライチェーンマネジメントといった経営の世界にも広まっていることを紹介する。

こうした組合せ最適化技術の特性を活かして、調達・購買では原材料、部品、副資材、MRO、トラック運賃や海運など複数品目・路線の価格交渉を同時に行うカテゴリーソーシングに、サプライチェーンマネジメントでは、工場や倉庫をどこに配置するとオペレーションのトータルコストが最小となるかといったサプライヤネットワーク構築、複数の商品の注文に対し、どこのラインで生産すると、生産-在庫-物流のどの方法で対応するとトータルコストが最小となるかといったデイリーのオペレーションの意思決定に用いられている。

人間はミスをする。特に短い時間で判断をしなければならない時は尚更だ。今回の清水女流王将の敗因も終盤のミスからだ。今回の対局では、持ち時間がそれぞれ3時間と制限されていた。この時間制限がもっと長ければ、或いは、再度、清水女流王将が対戦すればまた違った結果になるかもしれない。

反対に、コンピュータの演算にはまぎれがない。計算が単純であれば、ミスなく瞬時に答えを出す。あるのは、答えを出す時間があるかないかの問題だけ。ハードウェアの速度向上、ソフトウェアの改善により、情報処理技術の適用範囲は日々拡大している。

コンピュータが誤るのは、人間の設計が誤っていた時。意思決定の問題の単純な演算の所のみを取り出せば、人間には勝ち目がない。最近は、こうしたコンピュータの特性を認識した上で、コンピュータに人間の脳の代替をさせるのではなく、その特性をどう情報処理、意思決定に活かすかというように技術開発の方向性が変わっている。組合せ最適化もその一つの例。

日本将棋連盟の米長会長は対局前「普段通り指せば清水さんが勝つでしょう。コンピューターが得意とするのは正解が一つの場面。幅広い選択肢のある局面、ファジーな場面では人間の直感と大局観が勝る」と自信たっぷり。(出所:2010年10月7日 毎日新聞)」だったが、結果はあから2010の勝利となった。

米長会長が結果を見誤ったのは、過去の情報処理技術のイメージに囚われ、将棋ソフトの進歩のスピード、方向性を見落としたからではないか。或いは、自分達棋士の方がコンピュータよりも優れているという願望からかもしれない。

幸いビジネスの現場では、コンピュータと勝負する必要はない。やらなければいけないのは、コンピュータと勝負することではなく、いかに今ある技術を活用して、業務を効果的効率的に行うか、そのためには、人間とシステムとの間でどのような役割分担をすべきかを考えること。

次のページ相手の土俵ではなく、自分の土俵で勝負するのが、勝利への...

続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

中ノ森 清訓

株式会社 戦略調達 代表取締役社長

コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます

フォロー フォローして中ノ森 清訓の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。