酒は薬物、地獄の入口

2010.09.15

仕事術

酒は薬物、地獄の入口

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 芸術学部 哲学教授

/酒の怖さは自己管理能力を壊すところにある。酒メーカーがテレビの最大のスポンサーであるために、大量のCMが流され、ドラマでもネタにならないが、酒で人生を失う人はあまりに多い。/

 その先生は、研究において世界的に高い評価を得ている。信仰にも熱心で、多くの人々の尊敬を集めている人格者でもある。だが、近くで知る者としては、その後半生の実情はあまりにみじめで哀しい。重度のアルコール依存症。深夜、一人で飲み続けてしまうのだ。肝臓だけでなく、小脳までやられ、飲んでいないときも、まともに歩けない。失禁もしばしば。慢性的に手足が震え、もはや仕事どころではない。酒が切れてシラフに戻ると、この現実に絶望し、すぐまた酒に逃げ溺れる。

 精神的にも、かなりひどい状態にある。グラスの中の酒が、ゆっくり揺れて回りながら、いっしょに死のう、いっしょに死のう、と、ささやきかけてくるのだそうだ。その声をかき消すために、胃の中に流し込む。もちろん家族は、家のあちこちに隠された酒を見つけ次第すぐ捨てるのだが、いまの時代、簡単に深夜でもすぐ酒が買えてしまう。

 酒は、あまりに手軽な、典型的な薬物だ。飲んだら、すぐに効く。それも、依存性や中毒性がある。これは、らっきょが好き、とか、ポテトチップが好き、とかいう単なる嗜好とは異なる。もちろん理屈を言えば、コーヒーも、わざわざ豆のカフェインを熱で抽出する薬物だ。カレーなども、漢方的な意味での薬効が大いにあるだろう。とはいえ、気を失うほどにまで、コーヒーを飲み続けたり、カレーを食べ続けたりする者はいない。酒の怖さは、人間の自己管理能力をダイレクトに攻め落とすところにある。

 だからこそ、宴会でも、商談でも、腹を割って、親しく本音で話す場などで、酒は昔から人々に嗜まれてきた。飲食店の方も、とにかく辛くて油っこいものを出し、がんがん酒を注ぎ、とっとと酩酊させて自己管理能力を失わせ、ムダにバカ喰いバカ飲みさせてぼったくる、という手法を、あらゆるところで伝統的に濫用してきた。

 酒は、その素材に比してもともと高付加価値的であるうえに、保存熟成によって市中金利以上の価格上昇が見込まれ、希少な慶弔贈答品としてプレミアム性も生まれるために、昔から酒メーカーは、投資対象となり、また、金融業を兼ねてきた。とにかくカネを持っている。とくにテレビにおいては、最大級のスポンサーのひとつだ。だから、ニュースなどでも、酒の害については、まず採り挙げない。これほど酒による暴力事件や家庭崩壊、交通事故が日常的に起こっていながら、ドラマのネタにすることさえ巧妙に避ける。しかし、起こっていることこそが事実だ。そして、それは、明日の我が身。あなたが被害者になるのか、加害者になるのか、それともその家族になるのか。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 芸術学部 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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