部課長の対話力〈2〉~上司は「客観的でいること」に逃げるな

2010.08.10

組織・人材

部課長の対話力〈2〉~上司は「客観的でいること」に逃げるな

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

部課長が客観性に留まって指示・命令・評価しているだけでは部下は動かない。部下は上司とのやりとりで、「正論」より「熱のある話」を聞きたがっている。「評価」より「自分の存在意義」を求めている。「データ」より「意味・やりがい」に耳を傾ける。

 ◆部下は「正論」より「熱のある話」を聞きたがっている
 世の部長・課長は「部下のマネジメント」という名目の下に学習熱心です。さまざまに研修・セミナーを受け、ビジネス書を読み、いろいろな知識・技術を吸収しています。
 例えば、部課長は管理職に上がったときに「人事考課者研修」といったようなものを受け、部下の評価をいかに客観的に公正に行うかを学びます。そこでは評価者が陥りやすいエラーとして、「ハロー効果」や「寛大化傾向」「中心化傾向」「理論的錯誤」などがあることを学びます。また、人事評価制度に基づく客観的な事実のとらえ方や、査定方法、運用方法、面談方法などをこと細かに勉強します。
 また部下とのコミュニケーションを改善しようと「コーチング」を学んだりもします。そして「答えはあなたの中にある」という奥義を知ります。

 私はこれらの学習は必要であり、大事な知識吸収だと思っています。しかし、少なからずの部課長たちが、その習った知識や技術に“逃げている”のではないかとも感じています。
 人事考課者の研修では、部課長は、一にも二にも「客観的であれ。客観的な事実を把握し、それによって判断し、伝えよ」と教わります。しかし部課長が客観性に留まっているだけで部下は動くのでしょうか。上司との面談において、

 部下は、 「正論」より「熱のある話」を聞きたがっています。
 部下は、 「評価」より「自分の存在意義」を求めています。
 部下は、 「データ」より「意味・やりがい」に耳を傾けます。
 部下は、 「現実の分析」より「未来の期待」によって動きます。
 部下は、 「詰問」より「自問」によって考え始めます。
 部下は、 「客観的事実」より「主観的想い」を雑多にぶつけられる中で
 「この上司と一緒にやっていく!」かどうか、肚を決めます。

 「客観的に冷静であれ」ということを金科玉条のごとく守っている上司は、実は、自らの担当事業について熱をもっていない、主観的な自分の意見を自信を持って部下にぶつけられない、自部署のやっていることの意味や意義を語れない、部下の成長イメージを描けない、などの場合が多いのではないでしょうか。ですから、彼らが唯一頼れるのは「客観的でいる」ことなのです。

 コーチングのエッセンスである「答えはあなたの中にある」という問いかけもそうです。少なからずの上司が、このフレーズに逃げ込んでいます。「上司が自分の主観的な意見をいたずらに部下に言ってしまわないほうがよい。彼(彼女)自身が答えを出さなくなってしまう」―――これを都合のいい理由にしながら、実は、上司本人は部下にぶつける「コンテンツ(言うべき中身)」を持っていないのです。
 もっと困った上司は、部下と一対一面談をするとき、「真正面どうしで座らず、90度の角度をつくるように座るのがよい」というテクニックだけを覚えて、それを実行することで何か部下マネジメントが上達した気になっていることです。
 「どのように話すかという問題が意味を持つのは、何を話すかという問題が解決されてからである」 (『プロフェッショナルの条件』より)―――前回紹介したピーター・ドラッカーの言葉を私たちはよくよく肝に銘じなくてはなりません。
 公正で透明な人事評価の運用は大事です。しかし、それは主に「衛生要因」としてはたらくだけで、「動機づけ要因」としては非力です。部下が大いに動機づけされるためには、上司は強い主観を持ち、言うべき中身をどんどん彼らにぶつけなければならないのです。そこには対話というコミュニケーションがどうしても必要になってくるのです。

次のページ ◆コミュニケーションの基本要素「3つのC」

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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