なぜ不祥事は伝染するのか
「不明高齢者」問題と内部統制のあり方

2010.08.05

仕事術

なぜ不祥事は伝染するのか 「不明高齢者」問題と内部統制のあり方

増沢 隆太
株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

100才以上のお年寄りの存在そのものが確認できないという自体が続発しています。いつの間にやら似たような自体があちこちの自治体で出来てきました。なぜこうした不祥事は連続拡大するのでしょう。それは組織管理のあり方にあります。

某区最高齢の方が実は何十年も前に亡くなっていたらしい等、ミステリーから年金、保険金へのスキャンダルに広がってきました。結局管理する役所の責任問題などへ広がりを見せています。
確かに年間何百万もの税金が投入されるのに、何も検証をしていないというのは納税者として納得出来ません。しかし某区の事件を発端として、続々と似たような自体が明らかになるのはなぜでしょう。

現総理やら小泉元総理やら、年金未納問題が話題になった時も、わらわらと未納議員が続いたり、政治資金の記載もれやら仕分け違いでも、やはり一人が出ると連続して同様の「自己申告」が相次いだりしました。

ミスの無い組織はありません。しかし組織の管理体制によっては、こうした不祥事は連発して行きます。
こうした不祥事の伝播は、もちろん偶然同時発生した訳では無く、これまでヤバいんじゃないのと内在して隠蔽してきた問題が、一旦明るみに出たらこの機とばかりに、一気にドサクサで開示することで、そのインパクトを薄めることを目的としているのでしょう。

今このタイミングで、どこぞの市町村で、死者への年金支払いが発覚しても、下手をすればもうニュースにもならないかも知れません。担当者の自己保身のため、こうした不祥事は一度露見すると燎原の炎として広がるのが普通です。

さて、それではこうした事態は良いことなのでしょうか?不祥事を隠蔽し、そのままウヤムヤにされるより、膿を出すという点で考えれば良いことだと思います。

ただし、コーポレートリスクという視点ですと、こうした土壌は決して望ましいものとは言えません。要は「厳しいだけの管理、内部統制」は意味がないということなのです。
かつて古代の王で、都合の悪い知らせをもたらした家臣の首をはねた等と言われますが、厳しいだけの統制を行えば、当然組織は「闇」を隠蔽しようと自己防衛に走ります。
禁酒法が密造酒を発展させ、その売買のためギャングが横行したのと同じ現象です。

専制君主的統制だけでは、組織運営は出来ません。そこには人間の持つ「誤り」「うっかり」という避けて通れないマイナスを、きちんと受け止める現実性が必要なのです。
「ウチに限って無い」とか「ミスは緊張感の欠如」「姿勢の問題」として、組織運営の現実から目をそむけるのは何も生み出さず、問題点の地下化を促進するだけだと言えます。

「袋のねずみ」となった、完全に包囲出来る戦闘において、そのまま敵をせん滅しようとすれば、「窮鼠かえって猫を噛む」事態を招きます。正に死を賭けて反撃することで、味方は予想外に損害を被ることになりかねません。
ゆえに戦闘ではそこに逃げ道を作り、戦闘による損傷を減らす作戦が立てられます。靖国神社に銅像のある、天才軍略家・大村益次郎は、上野の彰義隊戦争で、最新鋭の長距離射程のアームストロング砲を有し、幕府軍を圧倒できたにもかかわらず、わざと黒門を手薄にし彰義隊の逃げ道を残しました。結果として、最後は江戸を火の海にして自決しようという彰義隊の反攻を低減させることが出来ました。

内部統制においても同じことが言えるでしょう。正直者がばかを見ない受入体制には、経営者の度量が欠かせません。有能な実務家=優秀な経営者でないのは、この度量の差です。
何より「現実的に」不祥事を減らして行くには、「いかに減らす」だけでへ不十分であり、起こった後、その被害をいかに小さくするかと言うリスク管理が避けられません。
風通しの良い組織と、器の大きな管理者。組織には欠かせません。

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増沢 隆太

株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。

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